―――不満があっても「自分たちが立ち上がって社会を変えていこうという」というよりも、何かやってくれそうな“スター”に期待するという人が多いですね。市民運動が盛り上がった時代もあったのに、なぜでしょう?
昔のようにデモや社会運動をやったら損をするというのが見えているからです。人口の多い団塊の世代はマイホーム主義を築いてきました。それは社会運動をして排除されたり転向したりする歴史を見てきたからです。若い頃に社会主義を主張した左翼たちは転向を余儀なくされました。しかも社会から排除されないためには自分が極端に「右」であることを証明しないといけなかった。ナショナリストになった元左翼は多いですよ。
左翼として留まり続けている人もいるけど、それはそれで信念だけで生きているみたいなところがある。信念を貫くのは立派だけど、本当の意味で社会に働きかけていない。
いずれにしても、団塊の世代の生き方は下の世代に大きな影響を与えていますよ。社会のために発言や行動をするのは損をする行為であり、敢えてそんなことをしようとするのは危ない奴なんだと思っている若い人は多いでしょう。そして自己責任とお金の論理で社会をぶち壊してくれる人に憧れる。こういう状況を生んだのはおとなたちだと思いますよ。このまま年金もらって、蕎麦打ちか何かやって老後を楽しむだけでいいのか。自分たちの価値観のみすぼらしさを反省して、もう一度、社会や子どもたちの未来を考えていかないと本当に罪な世代になってしまいますよ。
―――確かに大人には責任があると思います。では、若い人たちはどこに希望を見い出せばいいのでしょう?
打出の小槌みたいなものはありません。ひとつひとつの出来事を徹底的に批判したり考えたりする精神を身につけていくしかない。そして社会のなかで、今の無責任な言論やメディアにだまされないぞという声を大きくしていくことだと思いますね。
いろんなメディアが同じことを言い出したら危ないと思わなきゃ。そして違う意見はないかとしっかり探す。ぼくは今、みんなが「A」と言った瞬間、何も考えずに「B」と言ってますから(笑)。理由は後から大脳で考えます。それぐらい危ない状況だと思う。とにかく「違う意見もあるんだ」ということを言っておかないと。
それから、みんなが何かを共有する手段をもちたい。今はミニコミや雑誌がなかなか普及しないけど、言論の輪をもっと広げたいですね。間違ったニュースに踊らされるのがいかに不自由で、思考を縛られているか。人生を考えないといけない時に何も考えられなかったという悔いが残らないようにするために、言論のネットワークをしっかりとつくっていくことがすごく大事だと思います。
もうひとつは、地道に社会問題に取り組んでいる人たちの声をちゃんと広げていくこと。なかなか表には出ないけど、地域経済をつくったり福祉でがんばっていたりと生活に根ざした動きはいろんなところに見られます。
言論でしっかり対抗しながら地に足をつけて生きている人たちにこそ社会を反転させる力があります。実際、そういう流れも大きくなりつつはあると感じています。最近、農業に注目しているんですが、地方でみんなよくがんばってますよ。
―――メディアを通じて派手なパフォーマンスをする人たちばかりに注目するのではなく、自分たちで考える力を身につけながら、地域や地方に目を向けてネットワークをつくっていくということですね。ありがとうございました。
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