さまざまな角度から抜本的改革を
では具体的にどんな改革が必要なのでしょうか。まず多くの人権侵害が行われている保護房の監視強化です。使用条件を規制し、収容前後に医師の診断を義務づける。また保護房内の様子は常にビデオ記録をとり、数年間の保存を義務づけるなど、保護房の監視・監督体制の抜本的な改善が重要です。
次に人権救済システムの確立です。一連の事件で特徴的だったのは、集団暴行事件の当事者である矯正局、刑事事件を捜査する検察・刑事局、人権侵害事件として調査する人権擁護局という各局の責任者がすべて法務大臣であるということでした。仲間内で厳正な捜査・調査をするには無理があります。施設内の密室で行われる人権侵害の防止には、法務省から独立した人権救済機関が不可欠でしょう。
刑務所医療も大きな問題です。今回の事件で大きな衝撃を受けたのは、革手錠で締め上げられたために肝臓が裂けて亡くなったということがわかっているのにも関わらず、それを告発した医師がいないということです。刑務官と一体化していて、医師としての良心が麻痺しているとしか思えません。なぜそうなるのかというと、医師も矯正局の役人という立場だからでしょう。刑務所のなかの医師は、ある意味で社会の代表として拷問などが行われないよう監視する役割を持っているわけです。その役割を十分に果たすために、医療を法務省ではなく厚生労働省の管轄にして一般医療のなかに組み込んではどうかと提案しています。フランスとイギリスでは実際に法務省から厚生省へ管轄を移したことで、刑務所内の医療事情がずいぶん改善されたといわれています。日本でもぜひとも実現させたいですね。
そして忘れてはならないのが、刑務官の労働環境の改善です。日本には刑務官の労働組合がありません(労働基本権のひとつである団結権が認められていない)が、ILO(国際労働機関)によると刑務官の団結権はほとんどの国で認められています。サービス残業が多い、一挙手一投足を監視されるような管理が年々強まっている、そして何より労働者としての権利を認められていないなど、一人ひとりの刑務官が自由にものを言える環境がまったくないわけです。自分の人権を尊重されていない刑務官が、受刑者を人間的に扱えるわけがない。受刑者の人権同様、刑務官の労働者としての権利も尊重されなければなりません。
人間らしさを取り戻せる刑務所に
僕の夢としては、刑務所に入っている人が自分の恋人や友人とも会えるようになること。理不尽な扱いを受ければ人権救済の申し立てがすぐにできること。それも法務大臣だけでなく、刑務所外に人権救済機関があって、申し立てれば刑務官が立ち会っていないところで話を聞いてもらえる。医者に診てもらいたいといえば外部からお医者さんがきて、拷問されたと言えばすぐに外部に通報してもらえる……。要するに、刑務所が受刑者にとって人間らしい生活をするなかで自分のやったことを反省し、社会復帰に向けて準備することができる場となることです。
今、法務省は名古屋刑務所事件の反省を踏まえて行刑を改革するとし、法務大臣の諮問機関として行刑改革会議が設置され、活発な議論が始まっています。一般市民からの声をこの会議の委員にも届けていく必要があります。拷問のようなことが行われていたというひどい事実を、一部の刑務官や受刑者の問題とすり替えて簡単な制度の修正ですませようとするのであれば大問題です。どういう形で改革が進められるのか、厳しく見守っていかなければならないと思っています。
2003年4月18日インタビュー
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