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社会のニーズに合った新しい事業で雇用の創出を

釜ヶ崎支援機構事務局
釜ヶ崎支援機構事務局

 もがけばもがくほど悪いほうへ向かってしまうように見える野宿者問題だが、出口はないのだろうか。釜ヶ崎支援機構では行政と連携し、野宿生活者自身が生きる気力を取り戻し、自立していくための支援として公的就労に取り組んでいる。
「今、地方自治体はどこも財政赤字で、本来なら行政が担うべき業務も十分に行えない状態です。たとえば自治体が所有する土地の清掃や草刈なんですが、放置すれば虫の発生や雑草の繁殖などで住民から苦情が出る。そういうものを社会的に必要な仕事として認めてもらい、雇用をつくり出す。とりわけ大阪市は集客都市を目指しているわけですから、街の美化や公園の手入れ・保存という仕事が重要ですし、たくさんあります。これらを野宿生活者の仕事としてはどうか、と」
 高齢者問題にも雇用を生み出す下地がある。
「大阪市には、家に閉じこもっている高齢者を見守る“見守り事業”というのがあるのですが、今はネットワーク委員と呼ばれる“見守る”人の数が絶対的に不足しているし、委員さんたち自身も高齢なんです。そこで30代、40代の人をネットワーク委員として雇用すればいいと思うんですよ。こういった社会的に必要な事業に対して、もう少し予算をつけるべきじゃないかと提案しています」
 さらに、リサイクル運動にも目を向ける。
「大阪市では近いうちにゴミの分別収集が実施される予定なんですが、市民が分別に慣れるまでは集めたゴミを選別しなおすという作業が必要だと思うんですね。それも野宿生活者の雇用対策にできるんじゃないかと。こういった形で社会のニーズに合った新しい産業を立ち上げ、それを市民も認めて税金を回すというふうに社会の仕組みを変えていかなければ」(松繁さん)。
 もちろん、野宿生活者自身の意識変革も求められる。
「“怠け者が多いから野宿なんかするんだ”と言われるけど、実際はそうじゃないということを自分たちで証明していこうよ、と。今、“釜ヶ崎支援機構技能講習”と銘打って自転車の安全整備や靴修理の技能講習をやっています。講習を受けて自転車の国家資格を取った人もいるんですよ」
 自転車と靴を選んだのも、やはりリサイクルと環境問題をからめた提案があってのことだ。地下鉄やJRの駅にレンタサイクルを配置し、大阪城を中心に大阪市内の観光名所めぐりを自転車でできるようにする。通勤にも使えるようにすれば、車の交通量や排気ガスを減らせる。そして自転車の補修や供給などの業務には野宿者を雇用する。大きなお金をかけずにでき環境にもやさしい、ひとつの野宿生活者問題対策である(現在、大阪市と折衝中)。また、いずれリサイクルショップを開き、自転車や靴の修理も受けつけたいと考えている。

社会問題という認識を

釜が崎支援機構 理事長 山田實さん
釜ヶ崎支援機構 理事長 山田實さん

 釜ヶ崎支援機構の理事長、山田實さんはこう話す。「野宿生活者問題は、個人の問題ではなく社会の問題です。ずっとあった問題なんですが、かつては釜ヶ崎という器が機能していたから、ある意味ではごまかしがきいた。けれどもう器自体がもたない時代です。こうなった以上、社会的につくられてきた釜ヶ崎のような仕組みを取っ払って、本当に人が人として生活できる仕組みに置きかえないとダメでしょう。今、困っている人や死にかけている人がいるから、応急手当ということで炊き出しやパトロールや医療品の配布をしています。けれど社会の仕組みの問題である以上、やってもやっても(仕組みから)こぼれ落ちてくる人がいるからどうしようもない。新しい仕事と生活の保障制度をつくることでしか、野宿生活者問題は解決しません」
 野宿生活者問題を個人の問題と片付けるか、社会の問題ととらえるか。そこに社会の成熟度が表れてくる。それはもちろん、私たち一人ひとりの意識の問題でもある。

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