野宿生活者は「怠け者」?
路上で生活している人に対して、「怠けている」「努力が足りない」と指摘する人がいる。「パートのかけもちでも何でも、とことん自分の力でがんばるべきだ」と考える人もいるだろう。松繁さんはそんな声があるのを認めつつ、「そう言う人は家族や従業員の生活を支えたり、家のローンや子どもの教育費のために一生懸命働いてがんばっているのでしょう。けれども野宿している人の多くも、かつては同じようにがんばって働いていたんですよ」と話す。
釜ヶ崎支援機構が開設した「野宿予防119番」に電話をかけてきた人のなかには、こんなケースがあった。
「夫が兄と運送会社を経営していたが、今年1月に倒産してしまった。銀行から借金をしていたので、家族で住んでいる家まで売らなければ返済できないと弁護士が言う。このままでは仕事だけでなく住む場所までなくなってしまうが、どうしたらいいか」という、経営者の妻からの相談だ。これまで何とかもちこたえようとがんばった結果の倒産である。
リストラに遭い、やっとの思いで再就職を決めた途端に体を壊してしまって辞めざるを得なかったという人もいる。「努力という次元の話じゃないという例がけっこうあるんです。これを“体調を自己管理できないのが問題だ”とまで言ってしまうと、ちょっと過酷なんじゃないでしょうか。“自分はちゃんとやっているから(野宿しなければならない状況に陥ることが)理解できない”と言うのではなく、“誰にでも起こり得ること”という広い視野をたくさんの人にもっていただきたい。というのも“野宿生活をしている人たちは放っておけばいい”と考える納税者が多いと、国は野宿者対策に税金を使えませんから。“野宿者に税金なんて使う必要はない”と思われるかもしれませんが、今のままでは結局はとても社会的コストが高くつくことになるんですよ」
行き倒れている人を放っておくわけにはいかないから医療費もかかるし、公園や駅前に寝泊りする野宿者がいると苦情が出て一時施設もつくらなくてはならない。釜ヶ崎支援機構が国や行政に求めているのはこうした対症療法的な対策ではなく、野宿しなくても生活していける仕組みづくり、いわば「野宿予防対策」であると松繁さんは言う。
困難を極める、野宿生活からの脱出
リストラ、倒産、病気。野宿生活に至るきっかけは誰にとっても身近なことであり、時にはあっけなく仕事も家も失ってしまう構造がある。一方、いったん野宿生活者になってしまうと、仕事や家を取り戻すのは容易ではない。
「まず、どんなに切迫した状態になっても生活保護は受けられません。生活保護というのは安定した居住地をもっている人だけに適用されるものですから。体を壊して入院せざるを得ない人は別ですが……。それから職安での就職の斡旋も受けられません。住民票をもっていることが就職できる最低限の条件となっているからです。もちろん雇用保険ももらえません」
松繁さんは、部下の借金の連帯保証を負わされて逃げてきたという男性の相談を受けたことがある。会社に勤めていたから雇用保険が受けられるのだが、借金取りが怖くて住民票が移せない。「それでも失業給付はもらえるだろうか」と訊かれたが、答えはノーだった。「職安というのは、就職できる状態にある人にだけ失業給付を渡す制度。住民票がないということは就職できる状態でないということだから、給付されないんです」
職安の窓口もあてにできず、“住所不定”のまま自分の力だけで仕事を探さなくてはならない。当然、足元を見られて安く厳しい仕事ばかり。体を壊し、さらに追い詰められるのは時間の問題だ。
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