また1999年4月からは改正男女雇用機会均等法が施行され、原則として雇用のすべての分野における男女の異なる扱いが禁止となり、女性の活躍する分野も多岐にわたるようになってきました。このような社会の変化のなかで、表面化した問題の一つにセクシュアルハラスメントがあります。
労働省の指針における定義によると「相手方の意に反する性的な言動で、それに対する対応によって仕事を遂行するうえで、一定の不利益を与えたり、就業環境を悪化させること」とされています。
職場におけるセクシュアルハラスメントは被害者の名誉や個人としての尊厳を不当に傷つけるとともに、職場環境を悪化させ、職務の遂行に重大な影響を与えます。また企業にとってもこの問題は職場秩序を乱し、賠償金の支払いや社会的失墜をもたらし、従業員の勤労意欲やモラールの低下をまねくなど、企業の効率的運営を阻害するものです。この機会にセクシュアルハラスメントについてこのビデオを通して考えてみてください。
(2)解説のポイント
- 改正男女雇用機会均等法の内容
(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の配慮)
第21条 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する女性労働者の対応により当該女性労働者がその労働条件につき、不利益を受け、又は当該性的な言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう雇用管理上必要な配慮をしなければならない。
2 労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が配慮すべき事項についての指針を定めるものとする。
- 職場におけるセクシュアルハラスメントの内容
「職場」「相手の望まない」「性的言動」の三つがキーワードです。この三つが成立した言動が、職場における「セクシュアルハラスメント」に該当すると考えられます。
「職場」とは 事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所です。労働者が通常就業して いる場所以外であっても、労働者が業務を遂行する場所であれば職場になり
ます。また、アフターファイブの宴会であっても、実質的に職場の延長線上 のものであれば、職場に該当すると考えられます。
通常就業している以外の職場の例… 取引先の事務所、接待など取引先との商談・会食などの場所、出張先、車中(営業、バスガイドなど)、顧客の自宅(保険外交員など)、取材先(記者など)
「相手の望まない」とは 相手の「意に反する」ものであり、相手が「不快」と感じたり、「イヤだ」 と思う言動をさします。
「性的な言動」とは 性的な内容の発言や行動を意味します。
*性的な内容の発言…性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗な誘い、意図的に性的な噂を流布する、個人的な体験談を話したり聞いたりするなど
*性的な行動…性的な関係の強要、身体への不必要な接触、強制わいせつ行為、強姦、ヌードポスター・わいせつ図画の配布、掲示など
「対価型セクシュアルハラスメント」とは
“言うことを聞けば給料を高くしよう”“言うことを聞かないならやめてもらう”といったような上司の性的な言動に対し、抗議したら昇進昇格で差別された、解雇された、不利益な配置転換をされた、というように「女性労働者の対応により、その労働者が労働条件につき不利益を受けた」場合をさします。
「環境型セクシュアルハラスメント」とは
例えば事業主が腰や胸を触ったりするために苦痛に感じて就業意欲が低下する(身体接触型)。同僚が取引先に性的な内容の噂話を流したために苦痛に感じて仕事が手につかない(発言型)。女性労働者が抗議しているのに職場にヌードポスターを掲示しているため不快で職務に専念できない(視覚型)。といったように,意に反した性的な言動によって就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響を生じることをいいます。
「グレーゾーン」とは
セクシュアルハラスメントの形態は極めて多様であり、判断が微妙な場合や、セクシャルハラスメントに至らなくとも、放っておけばセクシュアルハラスメントになる事例もあります。これらの事例については、セクシュアルハラスメントを未然に防ぐ観点から、幅広く相談・苦情の対象とする等の対応が必要です。
* グレーゾーンを形成する意識や言動には次のようなものがあります。
・「お茶くみ」「電話番」は女性の仕事
・女性はサポートする役目、仕事ができない
・「うちの女の子」「オバサン」「オヤジ」などの言葉
・「かわいくない女」「男は結婚しないうちは一人前とはいえない」など、 「女性(男性)はかくあるべき」とする意識(ジェンダー)。
・また、普段の職場の中だけでなく、職場旅行や各種の飲み会の席といった、少し仕事から離れた場面での言動にも多く見られます。
・デュエットの強制 ・職場旅行での浴衣の強制 ・飲み会での酌の強制や座席の指定 ・各種余興での度を越した悪ふざけ
セクシュアルハラスメントのない職場環境をつくるには、相手を「対等なパートナー」と認め、このグレーゾーンにある差別的言動や性的言動、そしてそれらを生み出す意識をなくしていく必要があります。
- 企業が果たすべき雇用管理上の配慮義務
まず事業主が、セクシュアルハラスメントが企業秩序を乱す深刻な職場の問題であり、個々の従業員の人権侵害や雇用差別にまで及ぶ重大な問題であることを理解しておく必要があります。
労働省指針においては、職場におけるセクシュアルハラスメント防止のために事業主が配慮すべき事項を定めており、事業主は、下記3項目いずれにも配慮しなければなりません。
a.事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
・社内報、パンフレット等広報又は啓発の為の資料などに職場におけるセクシュアルハラスメントに関する事項を記載し、配付すること。
・服務上の規律を定めた文書に職場におけるセクシュアルハラスメントに関する事項を記載し、配付又は掲示すること。
・就業規則に職場におけるセクシュアルハラスメントに関する事項を規定すること。
・セクシュアルハラスメントに関する意識を啓発するための研修、講習等を実施すること。
・セクシュアルハラスメントの発生の原因や背景について理解を深めること。
b.相談、苦情への対応
(相談・苦情への対応のための窓口を明確にすることへの配慮)
・相談・苦情に対応する担当者をあらかじめ定めておくこと。
・苦情処理機関を設けること。 (相談・苦情に対し、その内容や状況に応じ、適切かつ柔軟に対応することについての配慮)
・人事部門との連携等により円滑な対応を図ること。
・あらかじめ作成したマニュアルに基づいて対応すること。
・セクシュアルハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても相談・苦情に対応すること。
c.セクシュアルハラスメントが生じた場合の事後の迅速かつ適切な対応
(事実関係の確認)
・相談、苦情に対応する担当者が確認
・人事部門が直接確認
・専門委員会が確認 (適切な対処)
・事案の内容や状況に応じ、配置転換等の雇用管理上の措置を講ずる。
・就業規則に基づく懲戒措置を講ずる。
以上、「配慮していると認められる例」を参考に、企業・事業所の規模や職場の状況に応じて、各事業主が最も適切と考える措置を講じることが大切です。
セクシュアルハラスメントは起こってから対処するのではなく、セクシュアルハラスメントを起こさないような職場環境を作っていくことが大切です。そのためにはセクシュアルハラスメントというものを正しく理解することが重要ではないでしょうか。