語ってくれる人を何よりも大事にしたい
・ ・・抑圧されたり情報不足のために悩む人が圧倒的に多いなか、性について語ってもらおうという研究会の活動は大変だったのではないでしょうか?
それはもう・・・。100人にインタビューを申し込んでも、オーケーをもらえるのは10人から15人ぐらい。あとは「冗談じゃない」と、冷たい目で見られるわけです。オーケーくれた人も、いざとなると口が固い。取材を受けたことを後悔するんですね。だから好きな映画や音楽の話なんかから始めて、そのうち少しずつ口を開き始めて、最後にはもう止まらなくなる・・・という感じかなあ。
・ ・・自分の性についての話が止まらなくなるんですか?
そう。もう泣いたり笑ったり・・・。最初は緊張しても、やっぱり「初めて聞いてもらえた」という快感があるんでしょうね。それとね、みんな口を揃えて「今までこんなに丁寧な扱いを受けたことはなかった」と言うんですよ。というのは、僕たちはシティホテルの部屋をとり、ルームサービスでコーヒーやサンドイッチを取って、そのうえでお話を伺ったからなんです。
実はインタビューをするにあたって、仲間たちと「まずは話をしてくれる人を大事にしようね」と話し合いました。「このお話の主人公はあなたです。私たちはあなたのお話を聞かせていただく立場です」という姿勢を徹底して貫こう、と。そのための資金として、出版社から印税なんかを全部、前倒しで借りました。その甲斐あって、みんな2時間の予定が5時間になるぐらいしゃべってくれるんです。1日に3〜4人のインタビューをするというスケジュールを立てていたから、後の調整が大変だったけど、福祉センターや喫茶店のすみっこで話を聞かなくてよかったとつくづく思いましたね。同時に、障害をもっている人たちが受けている抑圧の大きさにも改めて驚きました。
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・・そういう手探りの取材を経て、1冊目の『障害者が恋愛と性を語り始めた』が生まれたんですね。3冊目の『ここまできた障害者の恋愛と性』が出るまでの約10年間で、障害者の性をめぐる意識や環境は変わりましたか?
変化があるといえばあるし、ないといえばない、というところかな。たとえば夢精をガンではないかと心配するような人が少なくなったというのは事実です。これはインターネットの普及が大きいでしょうね。障害をもっている人たちは比較的早くからパソコンを取り入れていましたから、現実にアクティブな行動をとれるかどうかは別にしても情報量は10年前とは格段に違います。
ただ、じゃあ実際に自分が望むとおりの体験ができるのかというと、それは10年前の状況とあまり変わっていない。親御さんや施設の理解度もそれほど進んでいません。まあ、以前は小さな声でコソコソと話していたのが、今は喫茶店でコーヒーを飲みながら子どもたちの性の話ができるようにはなってきました。会話のレベルでは進んできたのかなあ。微々たるものですが、少しずつはオープンになってきましたね。
・ ・・逆に、外部からの批判や意見もいろいろあったのではないかと思うのですが。一番多かった批判は何ですか?
「寝た子を起こすな」ということですよね。僕たちは、マスターベーションを自力ではできない人に「自分の性について考えてみようよ」というメッセージを伝えるわけです。すると当然、「自分もマスターベーションしたい」という人が出てくる。ましてや恋愛やセックスをしたいとなると・・・。障害者のケアをしている人に、「あなたたちは火をつけるだけじゃないか。その先をどうしてくれるんや」と迫られたことは何度もあります。
・ ・・「寝た子を起こすな」論ですね。でも今の時代、寝た子がずっと寝ている方が難しいように思います。次回のテーマは「起きた子をどうするのか」(笑)。というわけで、研究会として取り組まれてきた活動やそのなかで見えてきた問題点などについてお聞きします。
河原さんの著書 |
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『ここまできた障害者の恋愛と性』(写真)
『障害者が恋愛と性を語りはじめた』
『知的障害者の恋愛と性に光を』
かもがわ出版発行 各2,200円
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