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作品「タイヤチューブコミュニケーション 母と近所の人たち」と折元さん
特上の寿司を食わせるからって、ばあさんたちを集めてさ。古タイヤはネックレス代わりで僕からの贈り物。135センチしかないお袋には、「母の大きな靴」の作品で、ビッグシューズをプレゼントしてあげた。小さい頃から家が貧乏で破けた靴しか履けなかったといつも聞かされていたし、年老いて歩行に苦労する姿の誇張でもあるわけです。撮影も、自宅やいつも行くソバ屋とか日常の場にして、これからの日本の課題である高齢者問題を暗くじゃなく、俺らしくコミカルに表現したかった。それが、これからの介護をどう明るくやっていけるかにつながっていくとも思うんですよ。でも、これを老人虐待だという評論家もいる。タイヤチューブは首かせ、ビッグシューズは足かせ、大きいボックスは牢屋や棺桶だってね。でも、問題を投げかけるものが多いほど傑作といわれるのが現代美術。それはそれでいいんだ。これらの作品は僕にとって宝物に違いないんだから。
俺は若い頃からお袋にとてもよくしてもらってね。芸大を7回も落ちた時だって、好きな道に進めるように応援してくれたのもお袋。そうした2人の信頼関係は、今になっても変わらない。お袋は、俺自身も、俺の作品も信頼してくれてるし、お袋にとって俺が一生懸命やって輝いていればそれでいいという感覚も、昔から変わらない。だから、気持ちよくコミュニケーションが取れるし、介護もできると思うんです。よく「嫁さんが気持ちよく介護してくれない」って話も聞きますが、若い頃から嫁さんに辛く当たってたら、そうなりかねない。介護が必要になるまでのお互いの気持ちとか、信頼関係は大切だと思いますね。
うちでは、遊び感覚でリズムに合わせて、いろんなポーズを作ってふざけ合ったり。また、お袋には現代美術なんて分かりっこないんだけど、新しい作品はまず見せて、「これ、どう思いますか」って聞いてあげる。そうすると、「この作品はいやらしいですね」「これは色がきれいですね」とか、点数までつけてくれるんです。
テレビも、耳が悪いお袋が観れるのは相撲か野球。巨人ファンでね。親子で毎回、勝負に20円かけるんです。人間って10円でもお金をかけると本気になれるから、お袋は選手の名前やゲームの内容もよく知ってる。これも大切なコミュニケーション。何でも話しかけるだけでいい。話が通じないから話しかけないじゃあ、年寄りとはコミュニケーションも取れなくなるからね。
とにかく介護は明るく楽しくなきゃ。やってあげてると思うと「このクソババア」って、なってしまうでしょう。できないことは公の相談機関に隠さず話して、サポートしてもらうのが一番。うちもホームヘルパーさんのお世話になっている。介護はプラス思考じゃないと、重く考え過ぎて逃げ口がなくなり、世間でよくある心中だとか、殺人になってしまうんですよ。老人だって、いやいやされるなら介護なんかしてほしくないし、嬉しくなんかないはず。気持ちがなきゃ、介護は続かない。俺も、2人の生活を楽しめる方法をいつも考えてますよ。介護って、ホントに先が見えないんだから。
(つづく)
撮影場所/原美術館 東京都品川区北品川4-7-25 Tel; 03-3445-0651
折元立身(おりもとたつみ)
1946年生まれ。 '69年に渡米、カリフォルニア美術学校に学ぶ。 '71年にニューヨークに移りナムジュン パイクの助手をつとめ、 フルクサス(パフォーマンス集団)の活動に参加。'77年帰国。人をテーマに「アジアの人の耳を引く」「パン人間」など、主に欧米で作品発表とパフォーマンスを続けている。シドニービエンナーレ展('88年)、サンパウロビエンナーレ展('91年)に参加。2000年夏、原美術館で開かれた「ART MAMA(アートママ)」と、頭にたくさんのパンをくくりつける「BREAD MAN(パン人間)」は、日本の美術館では初の本格的な発表となった。
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