子どもの権利条約が発効後、子どもをめぐる状況はどう変化したか
日本は‘94年4月に子どもの権利条約を批准、翌5月より発効となりました。以後、子どもたちをめぐる環境がどのように改善されたかというと、残念ながら教育分野ではあまり進展があったとはいえません。最近の「教育改革」にしても、子どもの権利を保障しようという方向ではなく、いかに「日本」に役立つ人材を育成しようかという方向になっており、そのなかで子どもの意見や希望は基本的に踏まえられていません。少年法改正もまた然りです。
一方で、虐待についてはメディアの影響もあり、それなりの取り組みが行われてきました。厚生労働省も通知を出したり、マニュアルを出したり、児童虐待防止法をつくったりと、基本的にいい方向に進んでいると思います。ただ、児童相談所や児童養護施設の人的体制についてはまだまだ不十分な面があります。虐待された子どもの精神的ケアや、親に対する援助も不十分です。施策をどう実効的なものにしていくかが今後の課題です。
議論の積み重ねが権利を知ることにつながる
そのためにも子どもの権利条約とその精神をより多くの人に伝える必要があるでしょう。神奈川県川崎市のように、自治体で「子どもの権利条例」をつくってしまうというのも、ひとつの方法です。それも上から一方的につくっていくのではなく、子どもも含めて市民と幅広く議論しながらつくっていく。そういう作業のなかで、子どももおとなも権利というものを考え、コンセンサスができていくのではないでしょうか。
また、子どもたちに「あなたたちにはこういう権利があるんだ」ということをきちんと知らせていくことだと思います。たとえば学校の生徒手帳には「あれはダメ、これもダメ」という禁止事項ばかりが並べられている一方、教師の責任については何も触れていません。学校の構成員としてお互いに守っていかなくてはならない学校憲章を、議論しながらつくっていくことで、子どもたちのなかに「権利を適切に行使するとはどういうことか」という意識が芽生えてくるはずです。
混乱を心配する人もいるかもしれません。しかしお互いがどんどん権利を行使していくことで、どこにどんな問題があるのかということを発見できるメリットの方がむしろ大きいと僕は考えています。混乱するのは、たとえば間違った主張に対してきちんと反論するだけの意思や論理がないだけに過ぎません。
こういう話し合いをしていくのは確かに「面倒」です。ただそうすることによってしか、権利を適切に行使するとはどういうことかを学ぶことはできない。議論を積み重ねていくことで民主主義は成熟していくし、権利の濫用も減っていくはずです。長い目で見れば、結局は誰もが暮らしやすい社会になっていくのだと思うのです。
もっと知りたい、子どもの世界と「子どもの権利条約」
子どもの気持ちや子どもの権利条約について、もっと詳しく知りたい人のために平野さんがお勧めの本をご紹介します。
『新解説 子どもの権利条約』 |
|
永井憲一・寺脇隆夫・喜多明人・荒牧重人/編
日本評論社発行 1,800円+税 |
『子どもによる子どものための「子どもの権利条約」』 |
|
小口尚子・福岡鮎美著
協力/アムネスティ・インターナショナル日本支部・谷川俊太郎
小学館発行 1,360円+税 |
『子どもが孤独(ひとり)でいる時間』 |
|
エリーズ・ボールディング著、松岡享子訳
こぐま社発行 1,200円+税 |