女性をとりまく環境が日本より一歩進んでいるイメージのあるアメリカですが、男女平等に関する法律はどうなっているのでしょうか。今回ご登場いただくのは、企業の法律コンサルタントとして来日して20余年、日米の法律に詳しいカリフォルニア州弁護士、ケント・ギルバートさんです。「履歴書に年齢、性別の記入や顔写真の添付をしない」まで進んだアメリカの「平等」事情やその経緯、法律をベースにした日米の温度差などについてお話しいただきます。
履歴書に写真を添付しない理由
日本に男女雇用機会均等法が施行されて17年になりますが、雇用が男性女性の差なく行われているかといえば、疑問が残ります。また同時に、アメリカとの温度差を感じます。
というのは、日本では市販の履歴書に性別を記載する欄がありますが、アメリカには既成の履歴書そのものが存在しないから、当然、性別欄もない。アメリカでいう履歴書とは、自分をアピールするために自分で作成するオリジナルなもの。どんな用紙を選び、学歴か職歴かあるいは趣味か、最初に何から書き始めるかも、その人が考えるんです。
僕は、30年ほど前に就職活動した時、ビジネスを目指して企業に送る履歴書はクリーム色の用紙を使い、ビジネススーツを着た写真を添付しましたが、弁護士を目指し法律事務所に送る履歴書は薄いグレーの用紙を使い、ピンストライプのスリーピースを着た写真を添付しました。書く内容も、自分の何を売り込みたいかによって微妙に違うわけです。
当時は、写真を添付しましたが、今は履歴書に写真を付けてはいけません。
なぜでしょう?
性別や人種が分かるからです。写真だけではなく、日本のように履歴書の中に年齢を書くことも、先述したように性別を書くことも禁止です。もし、誤って年齢や性別を記入したり、写真を添付した履歴書が届けられると、企業側は即座に書類審査でその人を面接枠からはずすでしょう。採用してもしなくても「男性(女性)だということを理由にされた」「年齢を理由にされた」「人種を理由にされた」すなわち「差別された」と不服請求を起こされる可能性がある。企業はそういったことが迷惑だから、リスクを回避するんです。
採用が内定するまでの面接で、企業側が性別、年齢、人種を聞くのも違反行為にあたります。
人種、肌の色、宗教、性、出身国による差別禁止
このように、アメリカは「女性だから雇わない」というレベルより、もはや相当進んでいます。
アメリカでは、1863年にリンカーンの奴隷解放宣言があったものの、その後も公衆便所も男用、女用、黒人用と3つあり、バスも黒人は後ろの席にしか座ってはいけない、学校も黒人用は別という、ひどい人種差別があったのです。1950年代から公民権運動が展開されていくなかで、1964年に雇用差別禁止立法の大黒柱といえる連邦法、公民権法が成立し、第7編に「人種、肌の色、宗教、性または出身国」を理由にした雇用や解雇、報酬などの差別が禁止された。すなわち、性差別の禁止は、この時から法文化されました。
といっても、これは南部出身議員が差別理由を拡大させることにより公民権法を不成立にさせることを意図して、審議中に突如「性差別」を含めることを提案し、それが一括可決されるという「偶然」によって成立したもの。国民のコンセンサスを得て出来た法律ではないため、法文化により哲学として理解されても、実際には「女性を採用するしないは好みの問題。採用しないことのどこが差別なんだ」という声も多くあったわけです。そういった実際の差別をなくすには、当事者が声を大にして権利を訴えないとダメ。だから、その作業として、60年代後半からウーマンリブの運動が盛んになり、少しずつ細かく判例が出たりして、法律が作られて女性の権利獲得が進んだ。その成果として、現在があるわけです。
ですから、アメリカには日本のように女性を保護する法律はありません。生理休暇もなければ、子育てや介護をしている人に対する深夜労働の免除もない。有給の育児休暇は男女ともにありますが、州によって条件が違っていて、しかも、基本的に零細企業は適用外になっています。同一労働同一賃金が原則で、家族手当はありません。結婚するしないは個人の問題で、会社には何の関係もないんですから、日本の家族手当は差別です。