----男になろう? それは、最初におっしゃった「自分の素のままを出していきたい」ということです?
そうですね。お色気からは、ほど遠く……。ギャグで一発当てようとも思わないから、正統派“しゃべくり”でいこう。パートナーが男であっても女であっても、同じ人間なんだから、面白い漫才をしたら絶対に笑ってもらえると思ったんです。
衣裳も、胸がはみ出るような色っぽい服を着ようとも思わなかったですしね。長いパンツをはいて舞台に出ると、会社に「男女コンビで売ってるんだから、せめてスカートをはいてくれ」と言われたので、タイトスカートのスーツをはくことにしたんですが。
ネタとしては、リサイクルネタや社会問題ネタ。私が新聞や週刊紙を読むなかで、「あ、面白いな」と触覚にひっかかるものをまさとさんに言い、まさとさんが台本を書く。等身大のネタにしました。
----それがウケた!
1~2年はかかりましたけどね。
よくやったのは、暗記ネタ。「鈴木・佐藤・田中・中山・山本・高橋……」と日本人に多い名前ベスト50ネタや、「大阪・天満・桜宮・京橋・大阪城公園……」とぐるぐる回る環状線ネタ、「もうじきオリンピック始まるなあ。どんな国が出る?」「カンボジア・日本……」と続き「ドリア・ラザニア・サンガリア」「違うやないか~」というような。お客さんに「この子、よく頑張ってるわ」「頭がいいのと違う?」と笑ってもらえるから、客席が全然いやらしい空気にならないんです。
----ある意味、自分を大切にした漫才、ですよね。
そう。もしも夫婦や恋人とコンビを組んでいたら、私だって「自分よりも笑いをとるほうが大事」と思って、浮気ネタや「うっふん、愛してる」ネタで自分を傷つけて漫才をやっていたかもしれないですから、まさとさんとコンビを組んだことに感謝しています。
私たちのやっていた漫才が世の中に認められる時、初めてお笑いの世界にジェンダーの凹凸がなくなる時やと思っていましたね。
----舞台ではなく、楽屋や会社などで、男が1番、女は2番のような空気はありませんでしたか。
ないない、それは全くない。お笑いの世界では、男女も年齢も関係なしに、先に会社に入ったほうが先輩、後から入ると後輩というのが当たり前なので、女性差別みたいなのはまったくなかったです。特殊な世界かもしれません。
----特殊な世界、ですか。そういえば、お笑いの世界では、ジェンダー的に見ると、「あれ?」と思う言葉づかいもありますが。
それ、難しい問題だと思うんです。例えば女性の芸人コンビが「いかず後家コンビです!」「どうも~、なかなか嫁にいけない○○です」と使っても、特に大阪では普通にOKなんですよね。「(お嫁に)もろてもろて、お気軽に~」もウケる。女性の芸人が商店街を歩いていたら、おばちゃんから「あんた、はよう嫁にもろてもらいや~」なんて言葉も飛んでくるけど、そこには思いやりや気配りもある。
確かにいきすぎている言葉もありますが、「ネガティブ・パワー」というか、それくらいきつい言葉を聞くほうが、長いお笑い文化の中では笑えるということもあると思うんです。
ジェンダー論の一部の人たちの中には「あれも差別だ、これも差別だ」と糾弾される方もいるようですが、そういった言葉を享受する人のほうが、今日は意識を高く持つ日、今日は憂さを晴らす日というふうにスイッチを切り替えて聞き分けしてくれているなら、重箱の隅をつつかなくてもいいような気がしないでもありません。
----差別的な言葉遣いだと認識するしないは人による、と?
そうですね。しかし、私自身は、そういう言葉遣いを「何かおかしくないか?」と気づきはじめました。
34歳で、関東在住の報道カメラマンの夫と結婚したのですが、私が彼のことを「うちのダンナ」と言おうとすると、夫に「その言葉遣いはダメだ」と言われた。「関西の文化の中でダンナという言葉遣いにジェンダーの歪みはないのかもしれないが、本来は上げ膳据え膳するような『旦那衆』『旦那様』を指す言葉なので、夫のことをそんなふうに言うはおかしい。僕も、君のことを家内とは言わない。連れ合いかパートナーと言いなさい」と。そんなこともあって、私も自分レベルのジェンダーを勉強しようと思ったんです。
----以来、亀山さんは言葉遣いに敏感になられた。
でも、大失敗したことがあります。
大阪府内ある市の男女共同参画関係の講演会に呼ばれた時、結婚したばかりだったので、「みなさん、亀ちゃんもとうとう嫁にもろてもらいました」と挨拶したんです。すると、すぐに担当者に袖をひっぱられて、舞台から降ろされて、
「今、あなたは『嫁にもろて』と言いましたね。すぐに撤回して、『結婚しました』と言い直してください」
と言われました。
また、ある番組で、「現在、嫁いで横浜に住んでいます」と自己紹介すると、
「NGです。『結婚して、横浜に住んでいます』と言ってください」
と局の人に言われた。
言葉というのは、本当に難しいものだなあと思うと同時に、私が疑問を持たずに使った短いフレーズの中にも、問題が集積していると思いました。
「泣いたらアカン」と言われてきた男性、「女の子は弱くてもいい」「女は男についていけばいい」と育てられてきた女性。そんな長年の感覚から、たとえば葬式でも集会所の集まりでも、おっちゃんは集まって酒飲み、おばちゃんは裏で炊き出し、というような生活が染み付いている。
「もう、そんな時代と違うねんで。料理好きなおっちゃんは料理したらいいし、前へ出て旗を振りたいおばちゃんは振ったらええのやで。我慢しないでいいねで~」
私は、講演に呼ばれた時などに、そんなふうによく言うようになりました。
(04年11月インタビュー text:井上理津子)
■亀山房代(かめやま・ふさよ)■
タレント。1967年三重県生まれ。1989年11月に元「ザ・ぼんち」の里見まさととコンビを結成。1997年に上方お笑い大賞(読売テレビ)金賞、98年に上方漫才大賞(ラジオ大阪)大賞を受賞。30歳を過ぎた頃から、社会的・教育的な番組に活動の場を広げ、現在、NHK大阪放送局「ぐるっと関西おひるまえ」「中国語会話」の司会者として活躍する一方、10代の性教育などをテーマに各地で講演している。著書に『みみどしま』(ぱすてる書房)。
※亀山さんの活動のもう一つの柱、「10代の性教育」をテーマにした、第2回インタビューも掲載予定です。
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