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職域を越えた連携で立ち直りの支援を

・・・自我が弱い。だから社会的な成功を得られないと、身近な人に依存してしまうということでしょうか。

 いえ、もっと根本的な問題ですね。加害者のなかにはいわゆる一流企業のサラリーマンや大学の先生など社会的ステイタスをもつ人も多いのですが、共通しているのが人間としての“弱さ”です。常に褒められ、尊敬されていなければ我慢できない。どんなに「成功という鎧」をまとっても自分自身に自信がないからすぐ不安になるんですよ。だからちょっと奥さんが気に入らないことを言うと大暴れする。

・・・ストーカー行為をなくすためには、自分を見つめなおし「生き直す」ための支援が欠かせないんですね。大変なことだと思いますが、そのためのプログラムはあるのですか?

小早川明子さん アルコール依存症や薬物依存症の回復プログラムをたたき台につくりました。まず、依存症であることに気づくことですね。気づいたら、「自分は変わる」と自分で決める。決めるためには、今まで刷り込まれてきた「私はこうすべきだ」「私にはこれができない」といった自分に対する思い込みやマイナス評価をすべて吐き出して、主体的な言葉に置き換えるんです。「私はこうすべきだ」を「私はこうしたい」に、「私にはこれができない」を「私はこれをしない」といったふうに。自分の行動はすべて自分が決められるということをひとつひとつ、しつこいぐらい確認していくんです。
 こうした考え・方法はゲシュタルト・セラピーという心理療法に基づいています。この心理療法は、徹底した他者支配の排除と自立ですから、ストーカー加害者の回復にはまさにうってつけだと考えています。たとえば相手と自分の立場を交互に置き換えて会話します。すると相手の感情はもちろん、自分の本当の気持ちにも気づき、相手に対する囚われから解放されるのです。
 また、何人かで集まってお互いのことを語り合う場もあります。シェアリング(気持ちを共有しあう)によって気づくこともあるし、仲間意識で支えあうこともできます。
 2003年春には浜松に、事件を起こしてしまった人のためのグループホームをつくりました。同じような経験をした人同士で共同生活をし、カウンセリングを受けながら社会復帰の準備をします。日本の社会は一度でも犯罪を起こすと社会復帰しづらいですよね。でも夢も希望ももてない状況では再犯しかねません。「仕事もできるし金持ちにもなれる。結婚だってできる」というのを見せてあげたいんです。

・・・2000年にストーカー規制法が成立し、社会の認識も深まりました。けれども現場で活動されている小早川さんは法の限界を感じられることもあると思います。現状と課題を教えてください。

 申立をすれば速やかに行政処分で警告してくれるのはありがたいです。こちらとしても「このままだと司法的な処置になりますよ」と注意できますから。ただ、警告する前後のフォローが絶対に欲しいんです。
 萎縮していた被害者が警察の力を借りて警告してきたとなると、加害者は反発します。攻撃されたと感じる人もいます。だから誰かが「今のままでは警告が出ますよ」とワンクッションをおいてから警告を出してほしい。
 警告された加害者は、表向き「もうしません」と言っても心のなかは煮えくり返った状態です。本当はストーカーになるだけの理由を聞いてほしいのに、一方的に「止めろ」と言われるんですから。だから私たちは、警告される日には身辺警護をつけるんですが、加害者にはカウンセリング等の医療的措置が必要だと思うんですね。DVにしても同じですが、「追いかけずにはいられない」「殴らずにはいられない」という脅迫的な思いや禁断症状に苦しんでいる人をどうケアしていくのかという視点がなければ、いつまでたってもストーカーやDVはなくなりません。ただ税金ですべて賄うのは難しいでしょうから、私たちのような役割のNPOと司法・医療が連携していく方法を考えていただきたいですね。

・・・ストーカーといえば不気味さばかりが強調されがちですが、被害者を守るのはもちろん、加害者にもケアと支援が必要なのですね。犯罪そのものに目を奪われるのではなく、「なぜ犯罪が起きるのか」という視点をもちたいものです。ありがとうございました。

【問い合わせ】

●NPO法人「ヒューマニティ」
 精神的虐待行為からの救済と立ち直り支援に関する事業、及び組織・家庭・学校等におけるさまざまなハラスメントの防止に関する事業を行っている。

E-mail:kobayakawa@npo-humanity.org
ホームページ:http://www.npo-humanity.org/

 

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