自分自身を認められない加害者
・・・加害者も苦しいというのは理解できます。ただ、すんなりと自分の「病気」を受け入れられるのでしょうか?
うちの場合、ほとんどは被害者から相談を受けるのですが、加害者と連絡をとると9割が会います。そして「これからは私が窓口になるから、彼女あるいは彼に直接、連絡をとるのは止めてください。でもすごくつらいだろうと思うから、話したいことがあれば私に言ってね」と言う。もう、私の携帯電話は鳴りっぱなしです(笑)。でも約束は守るんですよ。ストーカー規制法によって警告されてしまうということもありますが、曲がりなりにも誰かを通してコミュニケーションをとれるというのがうれしいんです。ストーキングというのは好きな人に相手にしてもらえなくて壁にぶつかっている状態。もって行き場のない気持ちを受け止めてもらえる場ができて、一息つく。そこをとらまえてカウンセリングするんです。
・・・カウンセリングではまずどんなことを?
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「あなたがストーカーになる日」(小早川明子著・広済堂出版 価格1,400円+税)
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ストーキングをしている人は、「今のままでは破滅しかない」とわかっています。だけど止める動機もない状態なんです。仕事もお金もない。そのうえ恋人(あるいは妻、夫)に逃げられてしまえばもう何も残らない。ストーキングを止めても「いいこと」はないわけです。そういう人にはグッドアドバイスではなく、グッドニュースをもっていく。この期に及んでアドバイスなんて無意味。「あの人がいなくちゃ生きていけないなんて言ってるけど、あなたは彼女なしでもちゃんと生きていける、素晴らしい人よ」と言ってあげる。
実際、素晴らしい一面をもっているんですよ。それなのに自分で自分のいい部分を認められず、他人に依存しようとする。そうなったのは親や社会の責任が大きいと思います。
・・・育つ過程でストーカーになるような性質が育まれてしまうんですか?
個性を伸ばせとか特別な人間になれだとか、常に何かを期待されていると「普通じゃダメだ」と思うようになるんですね。マスコミでも成功した人ばかりがもてはやされる。エステの宣伝を見れば「今のままじゃダメだ」と思うし、車の宣伝を見れば「この車でなければ」と思う。自信を失う情報に大きな影響を受けているのが彼らだと思うんですよ。かつての私も同じでした。
だからせめて素晴らしい人とつきあえば、「こんな人に愛されている」「こんな人を支配している、いじめている」という自信が、とても弱い自我を支えてくれるわけです。かりそめの自信なんですけどね。「かりそめの自信なんていらない。たとえ平凡でも、自分は自分でいいんだ」と気付いてもらうのが私の役目。なかなか難しいんですけど。
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