【マガジン9】家なき人のとなりで見る社会 第7回:僕が生きられる場所を探して(小林美穂子)
2021/06/30
※これは日本を舞台にしたフィクションです。
あの日、日常が変わった。
数日降り続いた雨が朝のうちに止み、午後には青空が広がった。
久しぶりに晴れた日曜日、映画館にでも行こうかと僕は外に出た。きらめく水たまりが鏡のように空を映している。風が首筋を撫でる。思わず鼻歌がもれるほどに眩しい初夏の空。
電車に乗ると、もはやそれが人間の習性でもあるかのように、肩から斜めにかけたバッグからスマホを取り出しSNSを覗く。
そういえば、今日、僕が常勤しているホームレス支援団体の同僚Fが国会議事堂前でスピーチをするらしい。この国で主義主張をする物好きは日に日に減っている。枯れ木も山の賑わい、どれ映画の前にひやかしに寄ってやるかと、僕は丸ノ内線に乗り込んだ。
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