【集英社新書プラス】書評:田中優子著『苦海・浄土・日本 石牟礼道子 もだえ神の精神』
2020/10/16
戦争、水俣病、沖縄、3・11……。
私たちの不甲斐なさとは、不条理を正視できず、
やり過ごす大衆の弱さだったのではないか
三上智恵(ジャーナリスト、映画監督)
世界を一変させた新型コロナ・パンデミック。石牟礼いしむれ道子が生きていたら、恐らくこれを「近代の病理」と捉えただろうと田中優子は断言する。石牟礼道子は、経済発展の代償として棄民される水俣に立ち尽くし、貶められ、生を奪われて乾涸ひからびていく民衆の、闇の奥からせり上がってくるような叫びをも言葉に書きつけようとした稀代の作家である。道子を誰より身近に感じて敬愛し、共鳴し、ご本人との交流もあった石牟礼論者の田中氏が、なぜこうもさらなる道子の言葉を求めるのか。
続きを読む
↓