ふらっと 人権情報ネットワーク

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ごあいさつ

AI(人工知能)の進化を踏まえた人権確立運動を 理事長 北口末廣

情報工学の進歩とともに差別意識も増幅

 ニューメディア人権機構を立ち上げた1999年11月当時に比べると、ネットメディアの社会的影響力は飛躍的に増大しました。私の研究テーマのひとつである「科学技術の進歩と人権」の観点からも、その影響力には驚くばかりです。

   人類史上、機械工学の進歩が筋力を限りなく増幅させました。たとえば、どんなに足の速い人も自動車にはかないませんし、どんなに力の強い人もブルドーザーにはかないません。これは大きなプラスです。一方でマイナスもあります。たとえば、機械工学が発展していなかった時代には交通事故はありませんでした。最も大きなマイナスは「戦争」です。機械工学の進歩によって、戦争で死ぬ人の数が非常に増えました。

 では、情報工学の進歩によってどんなプラスとマイナスがあるのでしょうか。現在は地球の裏側にいる人と瞬時につながり、会話ができます。機械工学の進歩が人間の筋力を増幅したように、情報工学の進歩は人間の意識を増幅していると言えるでしょう。問題は、差別意識も増幅してしまっていることです。

 もともとニューメディア人権機構を立ち上げたのは、社会における人権意識を強化したいという思いからでした。そのためにITをいかに活用できるか。いろいろ取り組んではきました。しかし残念ながら、現状は差別煽動をする人たちのほうが、ある意味「上手く」活用していると思わざるを得ません。

人工知能に何を学習させるかという課題

「人材がすべてを決する」といいます。分野を問わず、また、どんなにすばらしい取り組みであっても、携わる人間によって結果はまったく違ってくるということです。私はあえて、「情報がすべてを決する」と言います。これからの社会をどう築いていくかは、「人」「財」「情報」にかかっていると言えるでしょう。

 技術が進化するスピードは、年々速まっています。とりわけ人工知能の進化は目覚ましく、コンピュータが自ら学習して賢くなる「機械学習」が進化しています。従来の人工知能は、人間が決めたルールに沿ってコンピュータが最適解を選び出していました。しかし、現在ではコンピュータ自身が物事の判断基準となるルールを見つけ出す「ディープラーニング」(深層学習)が可能な時代です。コンピュータ自身が学習することで、人間と同じように見るもの、聞くもの、触れるものすべてが経験値となり、臨機応変な人間の判断により近づいてきました。

 ペッパーというロボットをテレビなどで見た人も多いでしょう。ペッパーには感情エンジンという人工知能が搭載され、すでに家庭や職場で人間のパートナーとなっています。

 将来的には、人工知能が人工知能を作り出していく可能性があります。シンギュラリティ(技術的特異点)といって、人工知能が人間を超えていくのです。こうなると、現在の私たちの想像をはるかに超える社会になるでしょう。IT革命、AI革命の進行とともに、部落解放運動に限らず、あらゆる人権問題、さらに、産業、教育、生活、雇用といったあらゆる分野が変革を迫られていると言えるでしょう。

 たとえば、今やネットでキーワード検索をすれば一瞬にして何でも出てきます。「同和」「部落」と検索すれば、何千、何万という項目がヒットし、さまざまな「解説」を読むことができます。しかし多くが間違っていたり、差別を助長したりするような内容です。それに対して、私たちはまったく対抗できていません。こうした差別的な情報をAIが学習したらどうなるでしょうか。誰かが部落問題について知りたいと検索した時、差別的な人工知能が答える可能性は十分にあります。このままでは、部落解放運動の地道な取り組みがドン・キホーテのようなことになるのではないか。科学技術の進歩と人権の関わりを研究している立場から、危惧する思いはふくらむばかりです。

第4次産業革命を人権確立に生かすために

 もちろん、ITやAIの進化をプラスに生かすこともできます。たとえば、啓発の取り組みです。価値観や考え方は人によって違います。一律におこなう啓発では、差別意識や偏見をもっている人に「なぜその考えが差別であり、間違っているか」を伝え、説得することはできません。つまり、必ず一定数は「伝わらない人」が出てくるわけです。その時に人工知能を活用できれば、一人ひとりの考えや理解のレベルに応じた啓発が可能になるでしょう。

 あるいは、仮想現実(バーチャルリアリティ)の活用です。特殊な眼鏡をかけることによって、別世界に入ることができるという技術の開発がすでに進んでいます。完成すれば、実際には存在しない、人権に関する資料館や博物館で学べます。他にもさまざまな可能性があるでしょう。

 これまで述べてきたプラスマイナスも含めて、現在、第4次産業革命が進行しています。私は今後10年から15年の間に、産業構造がかなり変化するとみています。人権という視点でみれば、科学技術と人権は切っても切れない関係です。科学技術と企業も同様です。さらに、科学技術を挟んで、企業と人権もまた、切っても切れない関係であり、今後はさらに深く結びついていくでしょう。

 もともと、私たちの暮らしは、政治情勢、社会情勢、経済情勢、自然現象といったものと一体です。たとえばフランス革命が起こった遠因のひとつに、1783年に起こったラキ火山の大噴火があります。大量の火山灰が異常気象をもたらし、小麦の不作が飢えと貧困を生み、人々の不満へとつながりました。このように自然現象は政治や経済に大きな影響を与えます。

 同様に、科学技術の進歩が政治や経済に大きな影響を与えようとしています。この現実をしっかりと踏まえたうえで、どのように人権確立を果たしていくのかが問われています。

 ニューメディア人権機構の取り組みは、「人権情報ネットワーク ふらっと」を中心に、人権確立の理念を広く伝えてきたと自負しております。さらなる激動の時代を迎えるにあたり、一層のご支援、ご協力をお願いします。