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尊厳をもってる子は犯罪なんか起さない

 10代の事件にしても、大きく報道されることで少年の凶悪犯罪が増えたかに見える。しかし、かつてピーク時には年間に400件あまりの殺人事件が起きていたのに比べ、今は年間100件以下に減った。「昔の報道されなかった時代と比較して、あたかも子どもの犯罪が増え、凶悪化しているかに思わされているのは、少年法改正につなげようとしているしか思えません」
 この問題を語る時、まず把握しておかなければいけないのが、「少年犯罪は、幼い時からの人権侵害の蓄積の結果だとみる」という点だろう。
「生まれながらにして犯罪者になろうとして生まれてきた子はいません。犯罪を犯す子には、その子自身がもつ問題性もあるかもしれない。しかし、もっと影響が大きいのはほとんどの子が小さい頃から大人の暴力、無視、抑圧、過保護、放任などを受けて傷つけられていること。子どもの極端な犯罪は、自暴自棄になった子が堪え切れなくて、絶望的な形で起こしてしまったもの。厳罰にすれば犯罪がなくなるという次元じゃない。そうした子を2度と犯罪者にしないために、どうすればいいかを考えるのが少年法なんです」
 少年法こそ「今まで与えてこなかった教育や福祉、医療の力で子どもたちに支援を与え、失われ、傷つけられてきた人権を回復させることによって、尊厳を取り戻そうとするもの」と力説する。
「犯罪は自分を傷つけ、人を傷つけること。自分の命が大事な人は、人の命も大事です。尊厳をもってる子は犯罪なんか起こしません。社会の一員として尊厳をもつ子に育てるには、子どもたちに規範や社会のルールを教えるのは大切なこと。善悪の線引きをちゃんとし、ここからは犯罪だということを教えていくべき。その線引きを大人たちが曖昧にして、問題が起きた時にだけ『子どもを甘やかしたからだ。厳罰にしろ』なんて絶対間違ってると思います」
 犯罪を予防するためにも、規範をきちんと子どもに示すと同時に、子どもの命を大事にし、“共に生きる”という姿勢を示してほしいと語る。

イメージ写真

 そんな中で大人ができることは?という問いに、「そばにいる子どもたちに“一人ぼっちじゃないんだよ”という言葉をかけてほしい」と微笑む坪井さん。
 まず自分の子どもの、そして教室の子どもたち、近所の子どもたちのパートナーになってほしいという。
「子どもたちって、みんな苦しみをかかえ、絶望の芽をかかえ、いつ、ちょっとしたことで失望や落胆の淵に陥るか分からない場所にいるんです。大人がそう思ってくれたら、どれだけの子どもが救われることか」
 問題を起こす子が特殊な子だと思ってはいけない。坪井さんは、さなざまな事件に関われば関わるほど、わが子は大丈夫だとは思えなくなってきたという。目の前にいる自分の子どもだって、同じ芽が潜んでいる。誰も話を聴いてくれなくて、救い手もなく孤立してしまったら、同じ状況になっても不思議ではないのだから。
 

「カリヨンとびらの家」もオープン

 「カリヨン子どもの家」で自分自身を取り戻した子どもたちは、どこへ向かうのだろう。
 たとえば、両親から逃げてきた子の場合は、弁護士が両親との間に入り、子どもがこれまで何が辛かったかを伝えて今後の方針を話し合う。家に戻る時には、弁護士と連絡を取れる状況にしていく子が多いそうだ。
「自分の管理下にいた子が突然いなくなったまま、弁護士から『代理人です』と連絡が入るんですから、親にとってはすごいショックです。自分たちがしてきてたことが子どもを苦しめていたんだと初めて気づく親もいます」
 子どもに帰ってきてほしいばかりに、必死になって夫婦カウンセリングを受けに行くケースもある。しかし、大人は回復しにくく、同じくり返しになる場合が多いよう。ひとつだけ違うのは、子どもがカリヨン子どもの家という逃げ場をもっていること。それが親子ともに大きな歯止めになっているそうである。
 児童施設から出て帰る家がない子の場合は、「自立援助ホーム」へ行くケースが多い。自立援助ホームとは、就労していて帰る家のない子の自立を援助するグループホームで、月3万円を支払えば衣食住が賄われ(概ね20歳まで)、子どもたちの給与の一部を貯金させたお金でその後住むアパートを契約して自立させるという位置づけだ。
 他には、住み込み先を見つけて出て行く子、病気を抱えているため生活保護を受けて出る子、学校へ通い直したいと児童養護施設へ行く子などさまざまである。
「アフターケアには限度があって、カリヨンでいつまでも面倒を見続けることはできません。でも、担当の弁護士はあなたたちのSOSにいつでも対応するよと伝えます」

 子どもたちにとって、ある意味、通過点であるシェルターの次の段階の受け入れ先として、頼りになるのは自立援助ホームだが、現実にはいつも満員の状態で、必要な時に入れない場合が多い。そこで、カリヨン子どもの家では、数年後には自分たちの建設的な自立援助ホームを持ちたいという目標を掲げていた。
 そうしたスタッフの熱意が届いたのだろう。東京都で自立援助ホーム足りないということから、カリヨンにやってみないかという白羽の矢が立ったのだ。そこへ建物を提供してくれる人も現れた。そして、今年4月15日、カリヨン子どもの家のオープン1周年を前に、自前の自立援助ホーム「カリヨンとびらの家」が開設したのである。
 夢から実現へ。問題を抱える子どもたちの割合からすれば、救われる子どもはまだまだ限られている。しかし、日本に欠けていた行き場のない子どものための施設が誕生し、いい方向で稼動し始めた。いい手本があれば、全国へ広がる大きな力となるはずである。
 坪井さんはいう。「きちんと話を聴く大人がそばにいれば、子どもたちは自分で立ち上がれる」と。

「カリヨン」とは、異なる音をもつ多数の鐘を組み合わせたメロディー演奏装置。それぞれの子どもたちが大切にされ、個性を発揮して社会で美しい音色を奏でてほしいという願いがこめられている。

カリヨンの組織図

(4月20日インタビュー text:上村悦子)

 

坪井節子(つぼい せつこ)
1953年東京生まれ。78年早稲田大学第一文学部卒業。80年弁護士登録。87年より東京弁護士会子どもの人権救済センターや日本弁護士連合会子どもの権利委員会等で子どもの人権救済活動に携わる。現在、カリヨン子どもセンター理事長、2女1男の母。主な著書に『子どもは大人のパートナー』『子どもの人権双書』『アジアの蝕まれる子どもたち』(以上明石書店)など多数。

■本紹介
『弁護士お母さんの子育て新発見』
(草土文化)本体1700円
『子どもは大人のパートナー』
(明石書店)本体1600円

 

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