そうはいっても患者さんや家族はなかなか行動できません。日常生活をケアすることが最優先だから。それでお父さんが「慎大郎の写真集や写真展をすることで筋ジスのことをたくさんの人に伝えていくという仕事をいっしょにやらせてほしい」と言ってくださったんです。「いい出会いをしたな」と思いました。
お母さんは最初、お父さんがしんちゃんの写真を撮ることを了解するとは思わなかったみたいです。「病気のことをどこまでちゃんと理解しているのか・・・」と言って。近所の人にも知らせていない病気のことが公になるということでもあるし。だけどお父さんは私のお願いに「全部、明らかにしてくださってけっこうです。それでこの子たちの命がひとりでも救われるようにしたい」と即座に了解してくださいました。その言葉をそばで聞いていたお母さんはボロボロ泣きました。その時に初めて、夫婦が同じ立場に立ってたんだということが確認しあえたんですね。写真集が完成した頃には、「うちの夫、いい夫ですよね」と何度も言われましたよ(笑)。
写真展のためにつくった85枚のパネルをスライドにして、撮影の時のエピソードなどを交えて説明するスライドトークもやっています。小・中・高校や専門学校から子育て中のお母さんたちの集まりまで、いろいろなところでやりましたが、高校生に話すのが一番やりがいがありますね。ある私立の女子校に行った時なんかは、スライドを見ながら何人もの女の子が涙を拭うんです。しんちゃんのように身体が動かない子どもが生きていくという意味と、今の自分が抱えている「生きる」ということへの葛藤を重ねて、一生懸命考えている。感想文のなかには、表面的なやりとりしかない家庭のなかで、自分がいかに愛されていないかを書いてくる子もいます。そして「しんちゃんはいいな。身体は動かなくて、命の問題もあるけど、愛情をいっぱいもらってる」って。
これほどではなくても、大なり小なりしんちゃんの存在を通じて自分のことを振り返ったという人は多いですね。しんちゃん自身も地域の保育園や小学校に通うなかで言葉をたくさん覚え、精神的にもたくましくなりました。今は発達よりも筋肉が壊れるほうが上回り始めたので、きめ細かくケアしてもらえる養護学校へ通っていますが、小学校の同級生たちもよく遊びに来るみたいですよ。
写真展や写真集を「よかった」と言ってもらえるのは嬉しいです。けれど、一番願っているのはやはり筋ジストロフィーの治療法が少しでも早く見つかること。一日一日を全力で生きている子どもたちがいることを忘れないでください。
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卒業を祝う会が始まります。「先頭は、しんちゃんがいい」と、友だちが決めました。(「しんちゃん」 菊池和子著より)
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菊池和子さんの写真集
『しんちゃん 【筋ジストロフィーの慎大郎くんの日々】』(写真)
草土文化発行 1,500円+消費税
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