「施設対地域」ではなく、「地域のなかの施設」という位置づけへ
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2階の食堂・娯楽室の一角には畳敷きの地域交流コーナーもある |
施設がオープンして半年が過ぎました。この間、児童連続殺傷事件という大変な事件があり、精神障害に対する偏見はさらに厳しくなりました。事件後、うちにも不安を訴えてこられる方がいるんじゃないかと思っていたんですが、それはありませんでした。差別・偏見がまったくなくなったわけではありませんが、本音で話し合うなかで少しずつ精神障害やこのような施設の役割が理解されつつあるのかもしれません。
しかし今もあちこちで施設コンフリクトが起きているのも事実なのです。反対運動をやっている人が見学に来られることもあるんですよ。話を聞くと、やはり精神障害についてよく知らないがための不安と同時に、行政への不信を持たれているのがわかります。
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1階の作業室ではさまざまな紙製品を製作している。なかでも本格的な紙すきによる名刺やハガキは好評だ |
「なぜ、自分たちの住む地域にこのような施設をつくるのか」という地域の疑問に対して、行政側はなかなかきちんと答えることができません。それは施策と地域を分けて考えているからだと私は思います。このような施設は地域福祉の一部です。誰でも思わぬ事故で障害をもったり、心の病気になる可能性はある。そんな時に相談したり利用できる施設が地域にあるというのは心強いはずなんです。しかし行政は施策として施設の建設を進めようとするので、地域に対して「どうしたら受け入れてもらえるか」という姿勢になりがちなんです。これでは「施設」対「地域」という構図になってしまいます。
地域福祉と精神保健では部局が違うという縦割り行政の弊害もあると思います。これを改め、地域福祉の一環として施設をきちんと位置づけられる時代がくれば、住民の意識もずいぶん変わってくるはずです。(‘01年秋・談)
時間をかけて地域との交流を図っていきたい
「すいすい」施設長・岡本雅由さん
シリーズ第1回で紹介した精神障害者地域生活支援センター『すいすい』へも久しぶりに足を運んだ。取材当時は開所反対の黄色いノボリや手書きのポスターが否応なく目に入る物々しい雰囲気だったが、今はすべてなくなり、『すいすい』は何の違和感もなく町に溶け込んでいるように見える。「本当に反対運動があったんだろうかと思うでしょう?」と施設長の岡本雅由さんも言う。しかし、願っていた「地域との交流」はまだ実現していない。反発が激しかっただけに、「こちらから積極的に働きかけることで、またこじれることになっても・・・」という思いがあるからだ。「すいすいを受け止めてもらうには4〜5年かかるんじゃないでしょうか。今は時間をかけてゆっくり見てもらおうと思っています」と岡本さん。コンフリクトの爪痕は深い。
『ふれあいの里』も『すいすい』も利用者は増えている。「大阪全域から来られます」と岡本さんは言うが、それは利用者の住む地域に施設がない、あるいは利用しにくいという現実の現れでもある。実際、両施設とも地域住民の利用は極端に低い。社会復帰や地域生活を支援するという施設の性格からいっても、住んでいる地域に利用できる施設があるのが望ましいのは言うまでもない。
行政の姿勢、マスコミ報道のあり方、そして住民の意識。施設コンフリクトを引き起こす要因はひとつではない。しかしコンフリクトの解消は、それぞれがまず「自分の問題」として向き合うことから始まるのではないか。人権という言葉を小手先の道具にしないためにも、「悪者探し」から一歩進んだ議論をする時期がきている。