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「施設コンフリクト」。多くの人にとっては、聞き慣れない言葉です。けれども実はあちこちの町で起きている、とても身近な問題なのです。もし、あなたの住む町に障害者施設ができることになったら、あなたはそれをどう受け止めますか? 私たちの人権意識を正面から問われるこの問題について、「自分自身のこと」として考えてみてください。
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施設コンフリクトとは?
+++「施設コンフリクト」とは+++
身体・知的あるいは精神障害者や高齢者のための社会福祉施設の新設計画が、近隣住民の反対運動によって中断、停滞する「人権摩擦」


シリーズ第2回

『すいすい』をめぐる反対運動が、ようやく決着

【精神障害者地域生活支援センター『すいすい』における
施設コンフリクト問題 '99年10月19日以降の経過】


1999年 10月27日 『すいすい』と地域住民の二者による話し合いが、初めて行われる。

11月20日 大阪市を通じて、住民側より9項目からなる「協定書」が届く。

11月22日 『すいすい』の運営母体、HITの全体会議が行われる。

11月24日 HIT代表と住民の話し合い。「協定書」の内容について合意。

12月8日 HIT代表、連合町会長、大阪市の三者が「協定書」に調印。

精神障害者地域生活支援センター『すいすい』施設長 岡本雅由さんに聞く 「これまでを振り返って思うこと、そして今後の課題」

 地域の方々から、「話し合いが済むまでは『すいすい』の運営をストップしてほしい」という要望が出たこともありましたが、「『すいすい』を必要としている人がいる以上、それだけはできない」と、何とか運営してきました。しかし今回「協定書」への調印までこぎつけ、「やっとスタートできた」というのが正直な感想です。

 私たちは、『地域交流』を運営方針のひとつに打ち出しているので、地域の人たちを抜きに事業展開は考えられません。ただ、今に至るまでにはお互い大きな葛藤があったので、いきなり利用者と直接、交流するのは難しいかもしれません。まずはきちんと運営していく、そして誰もが入りやすい雰囲気をつくっていくことを第一に考えていこうと思っています。

 これまでの一連の出来事は、テレビや新聞などでも取り上げられました。しかし改めて振り返ってみると、決して特別なことではなかったと思います。むしろあたりまえのことが起きたんですね。江戸、明治の時代から、精神障害者を排除し続けてきた歴史が、今も多くの人の心に受け継がれているんです。戦後でも「座敷牢」という言葉があり、精神障害者は家のなかに閉じ込められていました。今だって、たとえば「うちの子は精神障害者です」と言える雰囲気の社会ではありませんよね。こういう意識は、親が子どもに言葉で教えなくても、ちょっとした物言いや仕草などでも十分、心に刻みこまれていくものなのです。だからこそ、啓発が大事なんです。それを見逃してきた、私たち関係者や行政の責任は大きいと思います。「精神障害者も地域で暮らす権利がある」「精神障害は適切な治療を受ければ治ったり、軽減する」といったことを、多くの人に知らせる努力をしてこなかった。今回の教訓を活かすためにも、これからは啓発により力を入れていくべきだと思っています。

  「悪いことをしているわけでもないのに、なぜ『協定書』が必要なのか。調印することは、差別意識に屈することではないのか」という葛藤は、正直いってありました。でも、利用者のなかから「とりあえず、この事態を収めてほしい」という声が出たんです。「自分たちが見られているのは、わかってる。それでも来るねん。僕らの大事な『すいすい』や」と。

 この言葉を聞いて、精神障害を持つ当事者たちの意識改革がかなり進んできたのを実感しました。10年前なら、こんな言葉は出なかった。反対運動が起きたら即、また家から出られないようになってたでしょう。これは、「精神障害者が孤立しないよう、横のつながりをつくろう」と、多くの作業所や「親の会」などが連携し、交流してきた結果だと思います。しかし一方で、「親に『すいすい』へ出入りするのを止められた」と電話をかけてきた人が何人もいます。

 当事者たちは、少しずつ強くなってきた。仲間を求め、地域で生活することを望んでいます。今度は、私たち関係者や行政はもちろん、精神障害を誤解している人たちが意識改革に取り組む番です。


すいすい写真 ある日の『すいすい』
 毎週木曜日は、食事サービスの日。『すいすい』のスタッフやボランティアが、手作り料理を用意する。ランチタイムは12時から1時30分までだが、11時30分を過ぎると、次第に食堂はにぎやかになってくる。毎回、30人前後が集まるという食事サービスは、『すいすい』の利用者たちにとって大きな楽しみのひとつなのだ。

 1ヵ月前から食事サービスの常連になったというHさんは今日、友人のUさんを連れてきた。「私、出不精なんですけど、マーボー茄子につられて来ました」と笑うUさん。「ごはんは食べ放題やし、これで400円は絶対安いよ」と強調するHさんに、「あんたは 安い安いって、そればっかり」とUさんがツッコミを入れ、周囲がわっと笑う。スタッフやボランティアもいっしょに食べる食事の雰囲気は、とてもなごやかだ。
すいすい写真
「料理をつくるだけじゃなくて、利用者の人たちといっしょに食事しながらおしゃべりするというボランティアの方もいるんですよ」と『すいすい』のスタッフの潮崎さん。

「当事者」とも呼ばれる精神障害を持つ人たちのなかにも、元調理士の腕をふるってスタッフから頼りにされている人や、配膳や後片付けを手伝う人もいる。サービスを受ける人と提供する人に分かれるのではなく、「みんなでいっしょに」という雰囲気が自然にできあがっている、とても居心地のいい時間だった。 すいすい写真

『すいすい』の食事サービスに参加したい人は、前日の水曜日までに電話で予約を。
電話番号:06(6977)0114


『すいすい』の活動は、ようやく本格的にスタートした。大阪市内で第一号の精神障害地域生活支援センターである『すいすい』が、その役割を十分に果たすことができるかどうか。『すいすい』に寄せる「当事者」とその家族の期待は大きい。また、今後も同様のセンターの設立が予定されている。そのためにも、今回の一連の出来事が残した教訓、課題を行政は十分、吟味し、活かしてほしい。
「どこでも同じ問題が起きる可能性がある」という『すいすい』の岡本施設長の言葉をかみしめ、私たち自身も自分の問題として考えてみたい。まずは、「精神障害とは何か」を正確に知ることが必要だろう。
 次回は、施設コンフリクトが起きる背景となっている、国の施策の歴史と、大阪市西成区で起きた施設コンフリクトについてリポートしたい。 すいすい写真

(次号へつづく)





 シリーズ第3回はこちら

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