田辺鶴瑛さん(54)は、現在、介護度5で寝たきり、認知症の義父を自宅介護中だ。10〜20代で実母を、30代で義母を介護し見送った経験があり、3度目の介護。「不まじめな介護を楽しんでいる」と言う。その体験を語る「介護講談」も人気を呼んでいる。どんな思いで、どんな介護を------? 田辺さんに聞いた。
東京・杉並区の住宅街の一角にある田辺さんの家を訪ねた。1階の6畳間のベッドに「じいちゃん」の晋さん(90)が寝ている。「こんにちは」と挨拶した取材者に、晋さんは動かぬ体ながら「誰だい?」とにっこり。
「じいちゃんのこと、話聞きたいって、お客さんだよ」と田辺さんが言えば、「そうかいそうかいそうかいそうかい」「かゆいかゆいかゆいかゆい」と顔をしかめる。
「そりゃあ大変だ。かいたげっからね」と田辺さんは、晋さんの背中をごしごしかき始めたかと思うと、「手のひらを太陽に」の節で歌い出した。
「じいちゃんは今、生〜きている。生き〜ているからかゆいんだ・・・」
次第に、晋さんも一緒に歌おうと口をもぐもぐさせる。
「ね、じいちゃん、死んだらどうなる?」
「かゆくない」
「そうだそうだ。死〜んでしまったらかゆくない〜。気持ちいいかい?」
「ああ〜気持ちいい〜、ああ〜ああ〜ん(と気持ちよさそうに、晋さん叫ぶ)」
「でさぁ、晋さん今いくつ?」
「28」
「私は?」
「26だろ」
「晋さん、大学生?」
「違う違う。会社行ってるの」
「どこの会社?」
「○○○○」
「そっか〜。その○○○○が倒産したんだって。さっき、会社の人が来て、会社を立て直すから50万円寄付してくださいって」
「え〜? 本当かい? バカなこと言ってんじゃないって言ってやりな」
「泣いて頼んでるよ。じいちゃんだけが頼りなんだって」
「うちは、そんなに金持ちじゃないって、言ってやりな」
「分かった。言ってくる」
「頼んだぞ〜」
「任せときなって。んじゃ、言ってくるね」
田辺さんと晋さんの丁々発止を、さっそく見せてもらった。
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