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──ひと昔前は親を呼び寄せるなり故郷にUターンするなり、介護は同居が当然でしたよね?

 そうですね。でも今は、子世代と離れて暮らす老親は増える一方。私自身も遠くに両親がいて、『もうすぐあなたも遠距離介護』の取材で、都会で暮らしながら故郷の老親の生活をサポートしている多くの人たちがいることを知りました。情報を上手に集めて、いろいろなサービスを賢く使えば、離れて暮らすのもひとつの選択肢じゃないかな気づかされた一人です。
 親世代は年老いても住み慣れた場所で暮らしたいという方が多いし、子世代は子世代で仕事や子どもの教育のことを考えると、簡単に今の暮らしを変えられない。しかも、親子であれ、ずっと離れていれば生活パターンは変わってしまってる。嫁姑の関係だと、お互いの生活スタイルも分からない間柄。最近は仕事をもつ女性も増えていますから、同居しても24時間一緒にいられるわけではない。それなら同居にこだわらなくてもいいんじゃないかと。
 それに、今はきょうだいの数も少なくて、夫婦それぞれの両親のどちらかを呼び寄せれば、もう一方の親はどうなるのということになってしまう。仮に親を呼び寄せたとしても、肩身の狭い思いをするのは親なんですよね。子世代には、親が高齢になれば同居しなければという義務感や責任感があるけれど、それが両者にとって幸せとは限りません。パオッコには、離れていても上手に暮らしている会員の方が大勢いるので、これは自信をもって言えますね。 「呼び寄せ」か「Uターン」じゃなくなく、もう一つの選択肢が遠距離介護、親が1人でも安心して生活できる仕組みづくりです。

──遠距離介護にはコツが必要ということですが、準備することは?

太田 親の人生は親のものです。判断力があるうちは、まず親の気持ちをきちんと聞いて、その意向を尊重したいです。そのうえで遠距離介護と決めたなら、情報収集は子どもの役目。まず、地域の「地域包括支援センター」に連絡を取ってください。介護の専門家が揃っていて高齢者の暮らしについての相談に応じてくれるし、高齢者向けサービスをまとめた冊子も出しています。出向けない場合は、市町村の役所に電話で依頼すれば、郵送してもらえるはず。また、ボランティアや民間会社のサービスもありますから、予備的に情報収集しておけばいいですね。
 それと同時に、親自身がどんなケアを望んでいるか、よく話し合うこと。おむつ交換や食事介助などが介護と思いがちだけど、遠距離介護の場合は「生きることのサポート」です。現時点での親の身体の状況を把握し、暮らしで何が不足しているのかを考えて、食事の宅配サービスや緊急通報システム、見守りサービスなどの情報も調べておくことです。
 もう一つ、親がもしもの時にもっとも頼りになるのはご近所さんなんですね。帰省した時など事前にあいさつに伺って、「何かあった時には電話していいか」などとお願いしておけば心強い。電話番号を聞き、こちらの携帯電話番号も渡しておくことが大事です。
 離れて暮らす場合は、親自身の生活が見えてくるよう、コミュニケーションを密にすることがポイント。最近は、携帯メールを利用する方が増えています。
 一人暮らしが無理かどうか見極める時期としては、判断能力のある場合で、自力でトイレに行けなくなった時ではないでしょうか。介護保険を利用していれば、ケアマネージャーに「一人暮らしが無理だと思ったら伝えて」と頼んでおくことです。

──きょうだいで介護する場合、もめたという話をよく聞きますが……?

 介護は突然やってきます。しかも、長丁場になるケースが多いですから、最初にきょうだいで集まってお互いの気持ちを聞き、それぞれの役割を決めておくことです。
「介護って、いくらかかるの?」とよく聞かれますが、「いくらかかるか」じゃなくて「いくらかけられるか」。きょうだいで事前に介護資金プランを立てるのがベストです。
 親がどんな生活を送りたいかを話し合って介護ビジョン(在宅介護か、施設かなど)を練り、予算内でどんなサービスを受けたいかを考えて、何ができるかできないかを整理していきます。
 介護費用は基本的に親のサイフから。「親の介護費用は子どもが負担するもの」という考えが根強いけれど、それが子世代の介護への不安を増長させています。日本のような長寿大国で、子世代がすべて支援するには、なかなか難しい時代。親の経済状態を事前に把握して、介護費用と生活費を試算し、どうしても子どもの負担が必要ならどう分担するか、きょうだいで話し合っておけばもめません。
 介護サービスについては、いまだに「受けさせてもらうもの」と受け身になる方が多いですが、もっと消費者視点をもって自分たちで選択していくべきだと思います。
 また、故郷で同居のきょうだいに介護を任せる場合は、任せっきりにしない気持ちが大切です。介護者は介護と仕事との両立に悩んだり、休息が充分に取れていないことがあるので、気遣いは忘れずに。年に何回かは介護を交代したり、ショートステイを利用するよう勧めたりも一案です。やっぱり、ありがとうの言葉や品物で感謝の気持ちは表すべき。日々の介護をねぎらう姿勢が大事です。


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