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ガラス張りの運営が人を育て、人を呼ぶ。

グループホームの写真
食事の準備は手分けして。グループホーム「いなの家」の食堂

 

 けま喜楽苑が開設して、もうすぐ1年。障害のある高齢者が普通の生活を送れるノーマライゼーションの実現を目指す市川さんたちにとって、単なる特養から「地域のケア付き住宅へ」という願いは強い。玄関が2つあるのも、その思いから。1つは事務所横の苑の玄関であり、もう1つは家族が自由に出入りできる家族専用の玄関。来るたびに「お世話になります」と頭を下げなくて済むようにという配慮からだ。それはまた関係者だけが出入りする施設ではなく、「地域の文化の拠点」へ向かおうとする苑の姿勢でもある。
 それを力強く支えているのが「民主的運営」だ。喜楽苑では、ホームとデイサービス両方の家族会が結成され、亡くなった方の家族OB会、さらには入居者の自治会もある。ケア内容に対する要望や、運営、地域交流の企画などに加え、入居者の本音も交えて、スタッフとともに活発な話し合いが行われる。しかも、そこにボランティアや市民の参加も望むという市川さん。そうした苑の問題は、地域にすべて公開される。協力が大きいほど、交流が深まるほど、ボランティアも増えていく。その人たちが入居者の自由な生活の大きな支えとなっているのである。
 家族の立場からスタッフを指導する係の人もいれば、「お茶・お花倶楽部」で教える人、もうすぐ開店予定の喫茶室の担当者もすでに決まっている。食堂ではコンサートが開かれ、コーラスなどの自主的なクラブ活動も始まった。

談話室の写真
一杯飲みたい方はいつでもどうぞ。畑の借景がのどかな談話室「スコール」

 

 97年にオープンしたあしや喜楽苑には苑内に300人収容の地域交流スペースがあり、これまで講演会やシンポジウム、クラシックやジャズコンサート、ダンスパーティなどがたびたび開かれてきた。また、一角に設けられたギャラリーでは、質の高い個展がとぎれることなく続いている。苑の喫茶店には内外含め1日平均70人の出入りがあり、地域交流スペースには1カ月に延べ3000人の人々が集う。地域の文化の拠点、井戸端会議の場として完全に定着した。
「私達は問題が起きるたびに『人権を守る』という原点に返り、議論を繰り返してきました。一生懸命話し合うことで、スタッフはいいケアができるようになる。それを見られた地域の方が感動してくださり、苑への理解も進む。運営方針の『人権を守る』と『民主的運営』は別個のようで相関関係が強く、人権を守る取り組みの具体的な姿があるからこそ、民主的運営がますます発展していくんです」
 これまで専門家の間でいくども議論が交わされながら、現場ではふたをされ続けてきた高齢者施設の人権問題。ひとりの女性の熱い思いが形となり、すがすがしい風となって日本の福祉社会にさっそうと吹き込もうとしている。けま喜楽苑が、地域の文化の拠点となる日も近いようだ。

市川禮子さん市川禮子(いちかわれいこ)
1937年生まれ。74年に尼崎で乳児保育所を開設。83年より尼崎に初めて開設した特別養護老人ホーム「喜楽苑」の苑長代行及び生活指導員に。その後、2代目苑長を努め、92年には兵庫県生野町に西日本初、全室個室化の「いくの喜楽苑」を開設。阪神大震災直後には「ケア付き仮設住宅」を提案し運営。その恒久化を目指した「きらくえん倶楽部大桝町」を2001年1月開設。その間の97年には「あしや喜楽苑」を、2001年4月には「けま喜楽苑」を開設。2女の母。
高齢者福祉施設「けま喜楽苑」/兵庫県尼崎市食満2-22-1
TEL06-6493-8300
H.P. http://www.kirakuen.or.jp


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