難民支援から見える日本の外国人政策 RAFIQ ラフィク共同代表 田中恵子さん
2023/02/08
国際人権大学院大学(夜間)の実現をめざす大阪府民会議では毎年様々な切り口で人権をテーマにした「プレ講座」を開講している。2022年度のテーマは「マイノリティに対する差別と偏見」。第2講はRAFIQ ラフィク 在日難民との共生ネットワーク共同代表 田中恵子さんに「難民支援から見える日本の外国人政策」をテーマに講演していただいた。その様子を報告する。
市民として難民と出会い、活動スタート
まず、私たちの団体について説明したいと思います。RAFIQとはペルシャ語、アラビア語で「友だち」を意味します。その名の通り、友人として難民と一緒に暮らせる街を目指して活動してきました。
私が初めて難民と関わったのは、2001年、同時多発テロが起きた時です。当時、私は3人のわが子を育てながら、京都市の保育士として働いていました。2001年12月、アフガニスタンを舞台にした映画を観に行ったところ、近くに座っていたアフガニスタン人と知り合ったのです。その頃の私はアフガニスタンについても難民についても何も知りませんでしたが、その彼が茨木市にあった入管の外国人長期収容所に収容されたのです。そこで、面会に行くことにしました。
よくテレビや映画で観るような、3畳ほどの小部屋で30分ほど面会できました。それ以外の時間は収容されている部屋から出ることができません。言葉もわからず、なんの知識もなく、当時の私にはできることが何もありませんでしたが、面会すればわずか30分でも部屋から出すことができます。せめてそれぐらいはと思い、通うことにしました。仕事も子育てもあり、なかなか時間が取れませんでしたが、知人も呼び掛け週1回面会に行く体制を作りました。これが活動の始まりでした。
面会は30分ですが、待ち時間に同じく面会に訪れたいろいろな人たちと話をしました。中でも気が合ったのが当時20歳の男の子でした。
「このひどい状況を市民に知らせよう」と意見が一致し、2人で友人知人に声をかけると20人ほどが集まりました。「何もわからないけど、友だちとしてできることから始めよう」というところからスタートしました。
今も毎月開いている難民初級講座は、自分たちが学ぶために始めたものです。今日はその教材から抜粋して解説します。UNHCR(国連難民弁務官事務所)が2021年度に保護対象として統計に上げている人は8920万人に上ります。(「数字で見る難民情勢2021)
内訳は他国に逃れ、難民申請をしている人が2710万人、国内避難民が5320万人、庇護希望者が460万人です。今はコロナ禍で、国から出た人は国内避難民の半数ですが、コロナ禍以前は逆でした。
次に、難民条約についてお話しします。国連は第二次世界大戦の戦勝国が作った組織です。国連が最初にぶつかった問題が「難民」でした。ヨーロッパに約6000万人の難民がおり、その対処のため、国連は1950年にUNHCRを作りました。当初は3年間の予定でしたが、現在まで続いています。
1948年、世界人権宣言が採択され、すべての人間は差別されずに基本的人権を享受する権利を有することが確認されました。「すべての人間」ですから、難民にも適用されます。これを踏まえて2つの難民条約ができました。「難民の地位に関する条約」と「難民の地位に関する議定書」で、あわせて「難民条約」と呼びます。2021年現在、条約は146ヵ国、議定書は147ヵ国が加盟しています。このほか、1954年に「無国籍者の地位に関する条約」ができましたが、日本は未加盟です。
難民とは誰か。申請するとどうなるのか
では、いったい難民とはどんな人を指すのでしょうか。難民条約では、こう定義しています。
「人種・宗教・国籍もしくは特定の社会的集団するとの構成員であること、または政治的意見を理由に、迫害を受ける恐れがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の保護を受けられない者、またはそれを望まない者で国籍国の外にいる人」
英文の直訳でわかりにくいですが、一番の中心概念は「迫害を受ける恐れがあるという十分に理由のある恐怖」という部分です。その理由として人種・宗教・国籍・特定の社会的集団・政治的理由がある人です。特定の社会的集団とは、社会的に認知されている、同じ概念の人たちを指します。たとえば最近RAFIQが支援しているのはLGBTQ、性的マイノリティと言われる人たちです。この人たちはお互いを知らなくても社会的には同じ集団として認知されており、迫害されています。
UNHCRのホームページでは難民について、こう説明しています。
「今日『難民』とは、政治的迫害のほか、武力紛争や人権侵害を逃れるために、国境を越えて他国に庇護を求めた人々を指すようになっています。」
難民申請をすると、どうなるのか。最大のメリットは、申請者である限り、日本での滞在を認められることです。難民条約33条に、「本国に強制送還されない権利」「退去強制令書」が交付されている場合はその執行が中断されます。これをノン・ルフールマン原則といいます。日本では、難民認定されると5年の定住資格が得られます。人道配慮の場合、1年の定住者資格が出ます。
注意していただきたいのが、「難民」と「移民」の違いです。迫害の理由があって国外に逃れた人が難民、自由意志で国外に移動し定住した人が移民です。日本のマスコミが「帰宅難民」「介護難民」「保育難民」などと造語的に難民という言葉を使い、「非常に困っている人たち」と理解されている風潮がありますが、間違いです。定義は大切なので、ぜひ「難民」の正しい定義を知ってほしいと思います。
難民問題を語る時、「日本に難民がたくさん来たら困る」と言う人がいます。しかし日本は1975年に閣議決定でインドシナ難民の受け入れを決定し、家族を含めて約3万人を受け入れた実績があります。特に問題は起きていません。
日本は1981年に難民条約に加盟し、1982年に国内法「出入国管理及び難民認定法」を制定しました。担当は法務省で、担当部署が出入国在留管理庁です。この法律は外国人を管理する出入国管理法と、人道法である難民認定法を便宜的に一緒にしたものです。つまり、「国境の管理、外国人管理・排除」と「外国人受入れ・保護」という矛盾が一つの法律に内在しています。さらにこの法律は難民の認定のみで、保護については触れていません。具体的に保護を担う機関がないわけで、法務省は「あなたは難民です」と認定して終わり。これは非常に問題です。
数々の問題を抱える日本の難民認定法
具体的な問題点もたくさんあります。難民申請書は28ヶ国語しかありません。ちなみにウクライナ語はありません。また、政府から拷問などをされた人は日本政府のインタビューを受けることに大きな恐怖を感じると思うのですが、初回のインタビューは支援者の同席が認められません。拷問や迫害を受けた場合はその証拠が必要とされていますが、日本語に訳して提出しなければなりません。非常にハードルが高いので、証拠を提出できない人がたくさんいます。また、拷問などの動画の証拠を持っている人もたくさんいますが、これらもすべて日本語で文字起こしをして紙媒体で提出しなければいけません。
審査結果に対して異議申し立ての審査請求ができるシステムがありますが、そこでのインタビューがされないケースが非常に多いです。さらに、申請者の在留が制限されています。就労できない、健康保険に加入できない、保証人がいないために家が借りられないなど、兵糧攻めのような制限をされています。
最大の問題は、日本には独立した認定機関がなく、その時々の法務大臣が恣意的に認定していることです。
では実際に日本にどれくらいの難民がやって来て、難民として認定されているのでしょうか。2000年代までの年間難民申請者は1000人台でした。その後、シリア危機などが起こり、世界的な難民増大の流れの中で2014年から日本でも非常に難民が増えています。
2007年にとうとう2万人になりましたが、入管職員の数はあまり増えていません。そのため審査期間が2年3年5年と長くなり、批判が出るようになりました。そのため入管側はシステムの一部を改変するなどして強引に申請者を減らしました。そのため、2018年2019年は約1万人と申請者が半数になりました。
こうした状況で、日本は何人を難民認定しているかというと、最も多かった2021年で74人です。認定率は0.7%。イギリスが63.4%、カナダが62.1%、アメリカが32.2%、ドイツが25.9%、フランスが17.5%と主要国の認定率と比較すると、桁違いの低さです。
収容場の規則は刑務所に準じており、さらにすべてが所長の裁量で運用されています。たとえば収容期間の定めがない、外部との連絡が困難、面会は今でも30分まで。医療の不備もあります。食事は味の問題もありますが、何よりムスリムの人たちに対応したハラールがないのが大問題です。
仮放免の制度はありますが、仮放免にされるには保証人と300万円以内の保証金が必要です。ところがなんとか用意できたとしても、仮放免になるかどうかは所長の裁量です。たとえ仮放免になったとしても住民登録ができず、就労もできません。携帯電話や家を借りるための契約ができないわけです。
あらためて日本の難民認定法の問題点をまとめます。(1)UNHCRのガイドラインを無視した、日本独自の認定基準。(2)申請者に対する経済的、制度的な保護が不十分。セーフティネットや市民的権利がない。たとえば難民事業本部(RHQ)からの生活費支給制度がありますが、1日1600円と不十分かつ限定的です。また、申請者でも入国管理法違反となれば入管に収容、処遇は最悪です。
日本も世界的な流れに沿った難民支援を
こうした状況の中、難民を支援する団体が集まった「なんみんフォーラム(FRJ)」に加盟しています。全部で22団体が参加し、政策提言などを行なっています。国際的な動きも始まっています。2015年9月、国連でSDGs(持続可能な開発計画)が採択されました。「誰一人取り残さない社会を」のキャッチフレーズが示しているように、すべての人に関わります。2018年には「難民に関するグローバルコンタクト」が国連総会で採択されました。日本を含め、181ヶ国が賛成し、難民に関する国際的な支援体制の構築が始まり、フォローアップ会議も行われています。
2022年10月から、国連自由権規約委員会で日本の審査が始まりました。「なんみんフォーラム」では難民や庇護希望者、無国籍者の人権状況についてNGO報告書を提出しました。国連からは日本政府に対して5項目23件の勧告が出されていますが、まったく改善されていません。
一方で、政府は2021年に「入管法改正案」を国会に提出しました。この中で一番の問題は3度目の難民申請者は本国に送還できるとしていることです。先にご紹介したように、難民申請中は本国に強制送還されない権利があるというノン・ルフールマン原則が難民条約の基本ですが、政府が出した「改正案」はこれをまったく無視しています。現実問題としても、難民に寄り添ったフォロー体制がない中で、すぐに2度目3度目の申請になっています。2021年の「改正案」は廃案になりましたが、今後もしっかり注目していく必要があります。
RAFIQは市民が無償ボランティアで活動する小さな団体ですが、さまざまな団体と連携しながら日本での生活支援、医療支援、食料支援から市民啓発、政策提言などを行なっています。関心をもつ市民が一人でも増え、難民を友人として支える活動がさらに広まることを期待しています。