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同性婚はなぜ認められないの?/なんもり法律事務所 弁護士 南和行さん

2016/12/26


国際人権大学院大学(夜間)の実現をめざす大阪府民会議では毎年様々な切り口で人権をテーマにした「プレ講座」を開講している。2016年度のテーマは「直面する人権課題を考える」。連続講座の様子を報告する。

同性婚はなぜ認められないの?なんもり法律事務所 弁護士 南和行さん

いくつかの自治体で、同性パートナーシップを公認する取り組みが進んでいます。同性パートナーとの関係を家族として扱う企業も増えてきました。このような社会の動きは、同性カップルの法律上の婚姻を認めることにつながるのでしょうか。そもそも法律における「結婚」とは何でしょうか。弁護士の南和行さんに話していただきました。

まずは正確な知識を

 まず、私のことについて話したいと思います。私は同性愛者で弁護士をしています。私のパートナーも弁護士です。いろいろな場面で、「私たちは結婚式をあげました」と話すと、「普通の男の人ですね」「女の人の恰好をしないのですか」「どちらが男役ですか」といったことを訊かれることがあります。同性婚について話す前に、同性愛や同性愛者、あるいはLGBTについて知っておいていただきたいと思います。

 LGBTのLはレズビアン、女性の同性愛の頭文字です。Gは男性の同性愛、Bはバイセクシュアル、両性愛です。これは性的指向の問題だといわれています。どういう性別の人に恋愛感情や性的な気持ちを抱くかということです。

 Tはトランスジェンダー、割り当てられた性別への違和と説明されることが多いです。いわゆる性別というものは、社会的には体の形や特徴、あるいは戸籍において割り当てられています。それが自分が自覚する性別とずれている状態をトランスジェンダーといいます。これは性自認、性同一性の話だといわれます。トランスジェンダーは性同一性障害のことではないかと思われるかもしれません。性同一性障害は医療の現場で使われる言葉です。トランスジェンダーの人のなかで、体の特徴を手術で変えたいと考える人のために診断名として用いられます。これを受けて、戸籍の性別を男から女、女から男へと変える手続きの法律が性同一性障害特例法という名前になりました。

 この法律は非常に間口が狭く、性別変更の審判の要件が手術を強制していることや、「障害」という表現に対して、批判があります。今回は言及するのをここまでとしますが、LGBTという言葉、特にトランスジェンダーという言葉を大切に覚えてほしいと思います。LGBTという言葉だけを覚えて、「最近は変わった人たちがいるんだねえ」と、いろいろなところで言われますが、それは違います。

最大公約数では包み込めない人をどうするか

 一番覚えておいてほしいのは、ヘテロセクシュアルとシスジェンダーという言葉です。ヘテロセクシュアルとは異性愛です。シスジェンダーとは、割り当てられた性別、すなわち体の特徴や戸籍の性別と自分が生きていくという性別が一致している人のことです。私は、「オレ、普通やねん」と言う人に対して、「あなたはシスジェンダーでヘテロセクシュアルなだけですよね」という言い方をしたりします。ちなみに国連では、LGBTという言葉をあまり使いません。「セクシュアルオリエンテーション アンド ジェンダーアイデンティティー」という言葉を中心に使います。LGBTという言葉を強調すると、「特別な人の話」と捉えられがちだからです。

 今日のテーマは同性婚ですが、結婚に限らず、法律は「ヘテロセクシュアルとシスジェンダーしか世の中にいない」ということを前提に枠組みができあがっているところがたくさんあります。それを最も象徴しているのが「結婚」といえるかもしれません。

 法律や制度は最大公約数のところで線を引かざるを得ませんが、あくまで最大公約数です。全員を包括できるわけではありません。そこで包み込めない人をどうするかが課題になります。「包み込めないところに立っているあなたが悪い」という捉えるのか、「包み込めない人がいることを想定していなかったですね。じゃあその人たちも同じように幸せになれる方法を考えましょう」と捉えるのかでは、まったく発想が違います。

結婚の「社会的効果」の広がり

 ここで私自身の話に戻ります。私たちは交際10年を機に結婚式を挙げました。パートナーからの提案です。理由を訊くと、「めんどくさい」と。確かに、共通の友人知人、同業なのでお世話になっている方も重なる人がたくさんいます。お中元やお歳暮、年賀状などを送る時、住所が同じなのに別々に出したりして、大変でした。この際、結婚式を通じてオープンにすれば、生活が楽になるというのが彼の言い分でした。

 私は結婚式を挙げることには少し消極的だったのですが、結果的に結婚式を挙げることでいろいろな"効果"があるのを実感しました。まず、自分の母親をはじめとして、「結婚した人」として扱ってくれるようになったんです。お盆に「身内」として2人揃って呼ばれたり、結婚式にカップルとして並んだ席を用意されたり・・・。いわば「結婚の社会的効果」です。

 今、企業のなかにも同性カップルを家族として扱う取り組みが広がりつつあります。たとえばパナソニックが同性パートナーのいる社員に対する福利厚生を拡大しています。その他、保険会社がLGBT向けの商品開発をしたり、ホテルが同性カップル向けの結婚式プランを売り出したりするなどがあります。

 同性カップルを家族として承認する自治体の取り組みも広がっています。東京都世田谷区や三重県伊賀市、兵庫県宝塚市、沖縄県那覇市などでは、同性カップルであることを届け出て宣誓します。すると市長や区長の名前で宣誓書が出されます。「あなたたちがカップルであると役所で宣誓したことを、確かに聞きましたよ」ということです。東京都渋谷区も届出制ですが、届け出の際に「男女の結婚と同等の関係である」と言わなければなりません。男女の結婚が「普通」とされる枠組みがあったうえでの承認なんです。そういう意図があったかどうかは別にして、渋谷区はほかの自治体とは違う形になっています。

 先ほど「男同士が婚姻届を出しても受理されない」と言いましたが、結婚について定めた憲法24条では、同性婚を禁止していません。「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し」と書かれています。

気づかれにくい、「法律上の婚姻の効果」

 こうしてさまざまな取り組みをご紹介していくと、「日本は同性婚が禁止されていないし、偏見も減ってるし、サービスは拡大してる。もう不自由はないんじゃないの?」と思われるかもしれません。けれど、実はやっぱり法律がないために切実に困る部分があります。

 まず、一方が亡くなった時です。結婚している夫婦なら、遺産の半分を相続できます。ところが同性カップルの場合、法律上は「あかの他人」ですから、何十年一緒に暮らしていても何の権利もありません。次善の策として遺言を書いていても、高い相続税がかかります。夫婦の場合は「配偶者の軽減」として優遇措置が受けられます。しかし同性パートナーは「あかの他人」なので配偶者の軽減はありません。このように、権利保障にはやはり法律がなければ、いざという時に大きな不利益をこうむることになります。代替手段を駆使しても、相続税における「配偶者の軽減」のように埋められない穴があります。こういったことが「法律上の婚姻の効果」です。とても重大な問題なのに気づかれにくいのは、法律が想定しているのが異性愛夫婦という典型的な家族のみで、大多数の人に不都合がないからです。

 そこで、冒頭で申し上げたように、あらためて「なぜ男女という枠組みになっているのか」「そもそも結婚とは何なのか」を考えなければいけないのではと思うわけです。そして、実際に取りこぼされている人たちを、どう包み込んでいくのか――。

同性婚を考えることは「当たり前」を問い直すこと

 富国強兵を目指した明治時代、結婚は「国のため、家のため」でした。戦後、新しい憲法では家族を形成する権利となります。ただ、その時に想定されていたのは「男女」でした。男女の結婚と踏まえたうえで、民法の結婚制度を規定していったわけです。「両性の合意のみに基づいて成立し」の後に、「夫婦が同等の権利を有することを基本として」と続きます。であれば、実は男女という部分にこだわる必要はなく、多様な家族の権利が保障されるように工夫していけばいいこと。法律がとりこぼした部分を、どんどん付け足していくべきなんです。

 法律のとりこぼしは、実は同性カップルの問題にとどまりません。夫婦別姓や女性の再婚禁止期間など、「夫婦は同じ姓にでなくてはならない」「女性は離婚後、一定期間再婚できない」などの法律が、人の生き方や選択を縛り、さまざまな問題が生まれていることもあります。そして多くは女性が不利益を被っています。それなのに「結婚しても自分の名字を変えたくない」「愛情とは別の問題だ」と主張すると、「わがまま」だと非難されるんです。

 同性婚を考えることは、世間では「当たり前」だとされていることを問い直し、男女の役割分担が反映されている結婚のありようや、法律の仕組みをもう一度検討することにも通じます。「特別な人たちの特別な問題」ではなく、あらゆる人の人権意識の問題として考えてください。


●国際人権大学院大学(夜間)の実現をめざす大阪府民会議
同会議では2002年から様々な人権課題をテーマに「プレ講座」を開講している。今年度のテーマは「直面する人権課題を考える」。「子どもの貧困を減らすためにできることは?」「同性婚はなぜ認められないの?」「人工知能(AI)の進化とこれからの社会」「人口変動 漂流する高齢者」「分断社会を終わらせる:格差問題への新たな提案知憲」をテーマに5回連続で講座がひらかれる。