LGBTとして働くことと生きること 虹色ダイバーシティ代表 村木真紀さん
2015/03/06
国際人権大学院大学(夜間)の実現をめざす大阪府民会議では毎年様々な切り口で人権をテーマにした「プレ講座」を開講している。2014年度のテーマは「未来社会と人権」。連続講座の様子を報告する。
LGBTという単語を知ってますか? レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーという性的マイノリティを表す4つの英単語の頭文字です。LGBTと職場の問題に取り組むNPO法人虹色ダイバーシティ代表、村木真紀さんに、性的マイノリティの人々が直面する問題と解決に向けての提案を話していただきました。
レズビアンとゲイは、女性の同性愛者と男性の同性愛者、バイセクシュアルは性別に関わらずに人を好きになる、つまり女性を好きになることもあれば男性を好きになることもあるという人です。トランスジェンダーは一般には性同一性障害という言葉で知られています。産まれた時に出生届を出しますが、その際男女どちらかの性別を書かねばなりません。けれど実際にはそうではない生き方をしている人を広くトランスジェンダーといいます。外科手術やホルモン治療が必要な人が病院で診断される病名が「性同一性障害」となります。ただし、就業上で特に影響はないため、障害者手帳は出ません。
こうした性的マイノリティの人たちはどれくらいいるのでしょうか。2012年に電通総研が7万人からデータをとりました。そのなかで「自分は性的マイノリティだ」と答えた人は5.2%でした。だいたい20人に1人はいるという計算です。私も自分の実感からほぼ当たっているのではと感じています。
「そんなにいる気がしない」と思われる方が多いかもしれません。それはやはり目に見えない部分が多いからです。これがLGBTの特徴でもあります。
「性」を考える切り口は4つあります。身体つきや性遺伝子など「からだの性」、自分の性別をどう思うかという「性自認」、好きになる相手の性別を示す「性的指向」、服装やしぐさ、言葉遣いなどの「性表現」です。私の場合、マイノリティなのは性的指向の部分です。これまで好きになった人を並べると、9対1ぐらいで女性が多く、今のパートナーも女性です。ですから「自分を女性だと思っていて女性が好き」、つまり同性愛者ということになります。
トランスジェンダーの人は、「男性の身体で生まれていて性自認が女性」などと身体と心の性が違います。つまり性自認=性的指向だと同性愛、身体の性と性自認(こころの性)が違うのはトランスジェンダーです。性的指向と性自認は違うということを覚えておいてください。
LGBTの人たちは社会的にどんな問題を抱えているのでしょうか。パッと思い浮かぶのは「結婚できない」「性別の変更が難しい」ということです。結婚にはさまざまな社会保障が伴います。相続や税法、社会保障、住宅、福利厚生、在留資格、手術への同意、面会・看護など異性パートナーには当たり前に認められることが同性パートナーには認められていません。
性別の変更は2014年から可能になりましたが、20歳以上で、子どもがいる場合はその子が20歳以上であること、さらに性別適合手術を終えていて子どもが産めない(精巣や卵巣を摘出している)ことなど、国際的にみても非常に厳しい要件があります。
こうした特有の問題はありますが、実は身近な問題に含まれている視点がとても大事だと私は考えています。
たとえば多くのLGBTは思春期に自分の性自認や性的指向について悩みますが、誰にも相談できず孤立するというケースがほとんどです。私も高校時代、母親がテレビに出ている「オネエ」タレントに「気持ち悪い」と顔をしかめているのを見て「家では(自分のことを)言えないな」と思っていました。学校では先生がちょっと女らしいところのある男の子をからかっていました。やはりそれを見て「先生にも言えない」と思うのです。こうして子どもの頃から「誰にも言ってはいけない」と感じています。また、トランスジェンダーの子どもにとっては身体の性によって決められる制服がとても苦痛です。
職場でもさまざまな問題が起きています。私が最初に就職した会社では100人の新入社員のうち、女性は5人だけでした。そのなかでレズビアンだと言えるかといえばなかなか言えません。また、プライベートなことなので言う必要もないと考えていました。ところが職場のコミュニケーションのなかにプライベートな話題は当然のように出てきます。家族構成や恋人の有無、既婚か未婚かなど、当たり前に聞かれ、恋人がいないと「どんな人が好みなのか」などと突っ込まれました。そのうち飲み会に参加しづらくなり、徐々に孤立感を抱くようになります。仕事上の問題はなかったのですが、居心地が悪くなって数年で退職してしまいました。
実はこれは珍しい話ではありません。最初は自分の問題だと思っていたのですが、LGBTの友人たちと話していて、みんな同じ経験をしていることがわかりました。LGBTであることを誰にも相談できない、隠し続けなければならないことから学校や会社を離れ、社会から孤立する。その結果、就労の困難やメンタルヘルスの悪化、薬物依存やアルコール依存など「貧困ハイリスク層」となります。私は39歳ですが、身の回りですでに4人の性的マイノリティが自殺で亡くなっています。貧困やひきこもり、自殺など一般的な社会問題の背景にLGBTの存在があることはほぼ間違いないと私は考えています。これは当事者はもちろん、社会にとっても大きなリスクです。また、お金をかけて採用、教育した人材が心を病んだり、離職したりしていくわけですから、企業にとっても大きな損失です。
LGBTの問題を理解し、適切な対応をすることは会社の発展につながります。海外ではすでにIT企業を中心にLGBTフレンドリーな取り組みが積極的におこなわれています。たとえばLGBTの人たちのパレードに会社のトップも含めた社員が参加したり、LGBTを象徴する虹色の旗を店に掲げたりしています。ゲイであることをカミングアウトしたアップル社の社長をはじめ、企業のトップや有名スポーツ選手のカミングアウトも増えています。残念ながら日本の企業がLGBT支援を前面に出すことはまだ稀です。消費者の反応を心配する声をよく聞きますが、私が知る限り、好感や関心を集めることはあっても批判やボイコットをされた例はありません。
「そんな少数の人のために特別なことをするのは難しい」と躊躇する声もありますが、LGBTが働きやすい企業、生きやすい社会は障害者や外国人などさまざまなマイノリティも働きやすく、生きやすいはずです。海外の企業やすでに取り組みを始めている日本企業を参考にしながら、ぜひ社内外でLGBTに対するサポートに取り組んでいただきたいと思います。
●虹色ダイバーシティ
LGBT等の性的マイノリティがいきいきと働ける職場づくりをめざして、調査・講演活動、コンサルティング事業等を行っているNPO法人。LGBT、同性愛、性同一性障害などの性的マイノリティに関する企業、行政機関、各種団体向けの講演会、勉強会、研修会などを精力的に行っている。
●国際人権大学院大学(夜間)の実現をめざす大阪府民会議
同会議では2002年から様々な人権課題をテーマに「プレ講座」を開講している。今年度のテーマは「未来社会と人権」。「ケアラー(介護者)学入門」「ビッグデータ時代のプライバシー保護」「パワーアシストが社会を変える」「LGBT 働くことといきること」「出生前診断について考える」をテーマに5回連続で講座がひらかれた。