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特集



部落問題ありのまま vol.4

2008/06/14


大量にばらまかれた差別文書
プロフィール

2003年5月から翌年10月にかけて、東京都を中心に、全国の被差別部落出身者や運動団体などに対して差別的な内容を書き連ねたはがきや手紙が400 通以上送りつけられるという事件が起きた。内容は、「お前は部落民だ」「えた非人は人間じゃないんだよ、お前らなんて差別されてればいいんだよ」といった 激烈な内容だった。また、注文していない高額の書籍などが代引きで送りつけられたりもした。
2003年11月には、ホテルでの宿泊を拒否され、抗議していた国立ハンセン病療養所の菊池恵楓(けいふう)園に対して、部落出身者の名前をかたった差 別はがきが届いた。これも「お前たちハンセン病にかかった奴らは、ハンセン病発病の時点で人間ではなくなった」などという悪質きわまりない内容であり、入 所者の人たちを深く傷つけた。同じく部落出身者の名前をかたって「なんで障害者を普通学校に進学させる必要があるのかわからない。分際をわきまえろ」とい うはがきが障害者の運動団体に送りつけられたりもした。
解放同盟東京都連の職員、浦本誉至史さん(42歳)の告訴を受理した警察によって捜査が行われた結果、30代半ばの男性が「脅迫罪」で逮捕される。 2005年7月、東京地裁は「脅迫」「名誉毀損」「私文書偽造・同使用」の罪で懲役2年の実刑判決を出した。被告は控訴せず服役、事件は一応の決着をみた。

「この町に同和の人が住んでいるらしいね」

浦本さんは、被害者のなかでもっとも多くの差別文書が送りつけられた。
注文した覚えのない高額の書籍が自宅に送りつけられてきたのが、事件の始まりだった。以後、悪意に満ちたはがきや手紙が毎日のように届くようになった。
「最初はどうして自分の住所を知っているのか、なんでこんなことをやられなきゃいけないんだと驚くばかりでした」
と話す。しかし、「えた死ね。浦本を殺す会より」などと内容はどんどん過激になり、自宅周辺にもはがきがばらまかれるようになる。そこにはこのようなことが書かれていた。
「あなたの近所の○○アパート○○号室に住む浦本誉至史はえた非人の特殊部落民です。気をつけてください」
「特殊部落民・浦本誉至史を一日もはやく町から追い出しましょう。でないと、○○町全てが部落だと思われてしまいますよ、いいんですか」
筆跡を調べてみると、すでにあちこちにばらまかれて問題になっていた事件の犯人の筆跡と同じだった。自分だけが標的になっているのではないことはわかっ た。しかし「なぜ」「何のために」という疑問は消えない。それどころか「こんなことまでやるのか」「どこまでエスカレートするのか」と不安はふくらむ一方 だった。
「何しろ、帰宅すると差別はがきや手紙が届いているんです。でも抗議しようにも相手がわからない。それはもうすごいストレスでした」
職場にはがきや手紙を持って行き、机に叩きつけて「どうしてこういうことをするんだ!」と大声で怒鳴ることで、崩れそうな心のバランスをどうにか保った。
ある時、近所の銭湯で体を洗っていると、すぐ後ろで同じように体を洗っている二人連れの会話が耳に飛び込んできた。
「なんか、この町に同和の人が住んでるらしいね」
一瞬、体が固まった。
「明らかに私のことなんです。この人たちの所へもはがきが届いたのか、警察が訪ねてきたのかと思いました。当時は捜査が始まっていましたから。でもこっちも向こうも真っ裸だし、“ああ、それは私です”と言えなくて・・・」
16年も住んでいる町の、毎日通う銭湯。言葉を交わさなくともお互いに顔は覚えている。
「この人たちは、毎日銭湯で顔を合わせている私が“同和の人”だとわかったら、どう思うんだろうと、すごく奇妙な気持ちでした」