部落問題ありのまま vol.2
2007/11/02
しかし、彼女にはどうしても後に引けない理由があった。この問題に取り組み始めてしばらくすると、身近にいる人から部落出身者であることをカミングアウトされるということが3回続いたのである。いずれも部落から離れて住み、出身者であることをひた隠しにして生きていた。
「そのうちの一人は、以前から親しくしてきました。だけどそんな話は聞いたことがなかった。結婚する時に相手が部落出身者だと知り、親や友だちに大反対されたそうです。それでもいいと結婚したら、離れていった友だちも何人もいたそうです」
結婚後は夫婦の間でも部落の話はせず、忘れて生きていこうとやってきた。しかし子どもたちが成長するにつれて、考えずにはいられなくなる。自分たちは 「部落」を理由に親戚や友だちを失った。このまま隠し通せるのだろうか。それとも子どもたちもまた自分たちと同じ目に遭うのだろうか――。
「あなたより親しくつきあっている友人もいるけど、このことはよう言わん」
と話す彼女に、思わず安孫子さんは
「何で私に言うたん?」
と聞いた。そして
「一生懸命悩んでたし、みんなで協力して取り組んでいるのを見たから」
という答えを聞いた時、「絶対に裏切れない」と決意した。
部落出身のある友人に、「この問題は自分ひとりで考えてきた」と打ち明けられたこともある。苦しい胸のうちを話すには勇気がいる。受け止めてもらえない かもしれない、逆に避けられるようになるかもしれないと少しでも感じたら、決して言えない。被差別の立場に置かれた人の痛みと孤独を感じるとともに、仲間 だと思っていた自分たちが互いの思いをぶつけ合ってはいなかったのだと思い知った。
「私の大事な仲間だけじゃなく、こうして重い悲しみを抱えながら暮らしている人がきっと他にもたくさんいる。何があっても、おかしいことはおかしいと声を出し続けようと思ったんです」
しかし動けば動くほど、部落差別の根深さを知る。自分の子どもが通う小学校のPTA役員会で、市Pで起きたことを報告した時のこと。
「そんなふうに問題にするから差別がなくならないんじゃない」
「そこに住んでたら差別されるってわかってるのに、なんで住み続けるのかわからない。引っ越せばいいのに」
「それでも住み続けるということは、何かメリットがあるわけ?」
などといった発言が続出、しまいには何人もが
「子どもが部落の人と結婚すると言ったら、絶対に反対する」
と言い始めた。
「本人が決めたことならいいじゃない」と懸命に反論したが、理性によって押し込められていた本音がいったん噴き出すと、集団の勢いも借りて止まることを知らない。
「日頃は言わないのに、ちょっと話をふったらどんどん本音が出てくる。でもこれが世間なんだと思います」
生半可な取り組みでは逆に新たな差別を引き起こしかねない。そう感じた安孫子さんは、市P役員会の重点課題として掲げ、PTA大会のテーマや広報紙の特 集として取り上げた。部落のフィールドワークも実施した。そのなかで、少しずつ変わっていった人もいれば、相変わらず「いい気になるな」と批判する人もい る。人はそう簡単には変わらない。