「ブラック企業」に潰されないために 泣き寝入りが蔓延に拍車をかける NPO法人POSSE 今野晴貴さん
2014/02/20
――そもそも就職活動に際して、従来的な「正社員神話」がまかり通っているような気がします。
教員の人たちは実態を知らず、「そうは言っても頑張れば何とかなるんでしょ」と思っているんです。
高校の教員は特にそう。宿題をやってこなかったりする生徒を叱るのが先生の仕事なので、「ブラック企業と言っても、この子たちもいい加減だからでしょ」という考え方をし、それ以外の思考回路を持っていない。だから、まず教員が「あ、まずい」と事実に気づかなくちゃいけない。親も同様です。
僕の本を読んだキャリアセンターの職員などから「想像を超えていた」と連絡をもらいます。「こんなことだったら、とにかく頑張りなさいと言わなきゃ良かった」というような手紙をずいぶんもらいました。
極論すると、「何が何でも正社員になれ」と若者に発破をかける教員や親は、若者を戦場に送り出して死なせてしまった構図と似ていますね。我が子が鬱病になったりして後悔している親御さんがいて、本当に気の毒です。
----ブラック企業の見分け方を教えてください。
- 3年以内の離職率が3割を超える企業
- 基本給の中に「残業代」を含めて計算している企業
- 求人のときに、根拠なく「感動」「成長」「夢」という言葉が並び、業務内容を具体的に示さない企業
- 「25歳でマネージャーに」「年功序列を廃止。若手でも 1000万円が可能」など「若手でも活躍できる」と強調する企業
- 現状の社員数に対して採用人数が明らかに多い企業
- 新卒求人に併行して若手層を大量に中途採用するため求人している企業
- 選考プロセスが短くてあっという間に「内定」が出る企業
などです。詳しくは、「ブラック企業対策プロジェクト」 HPから「ブラック企業の見分け方」という冊子を無料ダウンロードして、ご覧ください。
――全ての企業が社員数、採用人数、退職率などのデータをオープンにしているのでしょうか?
全ての企業ではありませんが、『就職四季報』を見ると、だいたいのデータは分かります。平均勤続や離職率も掲載されていますから。それらの欄が空白で、回答していない企業は怪しいということですね。
また、中小企業などでも、上場していれば有価証券報告書から情報が手に入ることもあります。
――基本給が高い企業が要注意というのは?
基本給に残業代を含めるケースや、裁量労働制を採用するケースが広がっているんですね。要するに「何時間労働で給料いくら」いう大切な部分をあいまいにして、安く無限に働かせようという雇用の契約形態です。
ある大手の外食企業は、正社員採用する時に、80時間の残業代を含んで月に19万4500円です。金融大手で、「社員募集」としながら実は委託契約で、死ぬほど働いても月給10万円台という会社もあります。そういうところが珍しくないんですよ。
――「正社員」の給与額を残業代込みで、求人票に提示するのは違法ではないのですか。
先に言ったように、「正社員」表記に規制がないから、違法ではないんです。求人票の基本給に何時間の残業を含むと書いていないのも、違法ではない。内定を取った段階や、本契約の時にいきなり提示されて、「はい、わかりました」と言ったら、その条件で承諾したということになり、契約成立なんです。承諾しなかったら、就活をやり直さないといけないので、多くの学生はひどい条件を知って、「あれ?」と思っても、曖昧なまま契約してしまうんですね。そして、その条件で入社して「正社員になれた」と思う。「正社員の中味が違うぞ」と気づいても、法的に「自己責任だ」となる......。
――先ほど聞いた「正社員という言葉に騙される」というのが、よく分かります。
昔だったら、そんな狡猾なことをして悪評が立つと、優秀な人材が来なくなるのでやめようということになったのに、今は「正社員になりたい」という若者が世の中にあふれているという背景があります。
やっかいなのは、中にはちゃんと育てようと思っている企業もあるので、「我慢した方がいいキツい企業」なのか、「我慢しない方がいいキツい企業」なのか、分かりにくいことです。会社は「うちは使い潰しです」とは言わないし、100人に1人は生き残っていて、「がんばればあの人みたいになれる」と言われて、やめる方が悪いと思い込まされる。100人雇ったら90人は何とかなっていないと、その会社のマネージメントに問題があるだろうと思わなきゃいけないと思います。