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再び社会とつながるために~「生活保護脱却」から「社会的自立」へ~ おしごと興業合同会社「とらんぽりん」

2013/10/11


仕事を失ったとたんに孤立してしまう

支援員の南田さん

 年齢も環境も違う2人だが、ずっと働き続けてきたことは共通している。そして生活保護を受けることに対する「情けない思い」や「遠慮」「後ろめたさ」も。社会福祉士で支援員の南田敬さんはこう話す。「ここに初めてきた時、2人ともとても暗かったんですよ。タムラさんなんかずっと下を向きっぱなしでした。

 2人に限らず、みんな寂しいんです。身内との仲が悪い。友だちもいないし金もない。やることと言えばパチンコかテレビか酒を飲むかしかない。そんな生活で体調も悪くなって、気持ちはどんどんひねくれていってしまう」

 イワサキさんのように全国を飛び回る仕事をしていれば、自宅のある地域に人間関係をつくる時間がない。タムラさんのような独身の一人暮らしもまた地域とのつながりがつくりにくい。ともに仕事という社会との接点が切れれば、たちまち孤立してしまう。

 タムラさんの場合、公園の職員である若者たちとの会話がきっかけで人間関係が生まれた。最初は1人2人との対話だったのが、徐々に人が集まるようになり、笑い声も生まれた。音楽好きのタムラさんの話を若者が聞きたがっていることを南田さんが伝えると、タムラさんの顔がパッと輝いた。

 イワサキさんは自分の専門である溶接の仕事で仲間たちの信頼と尊敬を集め、存在感を発揮し始めた。親の介護をめぐって実のきょうだいや役所への不信感を募らせ心を閉ざしがちになっていたが、今は「とらんぽりん」の現場に入ってきた仲間たちの話を聞き、励ます役どころだ。

おしごと興業の作業風景  「死にたいと思った経験なんかをしてここに来た人たちには、まず"まあひとまずゆっくりして、笑えるようになったらええやん"と言うんです。そして一緒に公園の掃除やゴミ集めをする。そしたらほんまに笑ってくれるようになるんですよ。笑えるようになった時に初めて、"じゃあ、次は何をしようか"という話をします」

 3ヶ月の訓練中は手当てが支給される。そのぶん保護費は減額されるが、イワサキさんは「自分の稼いだ金が少しでもあったほうがうれしい」と話す。朝8時30分から午後1時までの間に3交代でシフトを組み、みんなで仕事を分け合う。溶接や樹木の剪定、雑草の処理などさまざまな作業があるが、中心となるゴミ回収作業は危険も伴う厳しい仕事だ。広い公園にはガラス瓶や包丁、生ゴミ、粗大ゴミなどあらゆるゴミが野放図に捨てられる。腐敗臭がひどい真夏の作業では体調を崩す人やガクッと体重が落ちる人もいる。しかし仕事のきつさで辞める人はほとんどいない。南田さんはイワサキさんが「家以外の場所にロッカーがあるのがええねん」と繰り返し言うのを聞いている。「第二の居場所なんです。住む場所も大事だけど、家以外の居場所も必要なんだと私も彼らに教わりました。忘年会ではみんなすごくはしゃぎますよ。忘年会というものに10年も20年も縁がなかった。"こんなん、何年ぶりやろ"と言いながら、6時半集合なのに4時ごろから集まってくる(笑)」

 人はロッカーひとつ、飲み会ひとつに支えられる。そこには「ここがあなたの居場所だよ」「あなたもメンバーだよ」というメッセージがあるからだ。それを抜きにし、決められた時間にただそこへ行き、ただ働くだけの「就労」に、どんな希望を見出せるだろう。