ふらっと 人権情報ネットワーク

ふらっとNOW



この社会が私の「ふるさと」。だからこそ差別を許さない。 人材育成コンサルタント 辛淑玉さん

2014/01/23


この社会が私の「ふるさと」。だからこそ差別を許さない。 人材育成コンサルタント 辛淑玉さん

 拡声器で差別語を連呼しながらデモをし、インターネット上でも敵意と悪意をむき出しに差別を繰り広げるという事象がここ数年で一気に増えた。カウンター行動も盛り上がりを見せているが、差別に対して「ノー」と言う空気が社会全体に広まっているとは言えない。 ここまで差別が先鋭化する背景に何があるのか。それを容認しているかのような社会の空気は何なのか。マイノリティ当事者の立場から日本社会のありように問題提起をしてきた辛淑玉さんに話を聞いた。

呼びかけに沈黙した同胞たち

――在日コリアンの人々に対する差別はずっとありましたが、白昼堂々と「死ね!」「ゴキブリ」などと連呼するヘイトスピーチがここまで横行するとは。辛さんはどうとらえていますか?

 私は3.11(東日本大震災)直後から被災地に通い、在日外国人や女性、子どもたちの支援活動をしてきました。関東大震災のことがあったからいずれ何かが起きるだろうとは思ってたけど、支援活動のなかで遭遇するとは思わなかった。

 最初はデマでした。タクシーに乗ると運転手さんが「ここですよ、外国人が押し入った銀行は」とか言うんです。「やばいな」と思いました。「このエネルギーは弱いところに向かうだろう」と予感したんです。

 しかし、正直ここまで急に悪くなるとは。昨年(2013年)、拡大するヘイトスピーチに対抗するために「のりこえねっと ―ヘイトスピーチとレイシズムを乗り越える国際ネットワーク―」を立ち上げました。その時、「一緒にやってほしい」と周囲の在日に声をかけても、否定的な反応ばかりがかえってきたのです。もっと広く呼びかけていたら、出てきてくれた人もいたのかもしれない。でも、今までだって問題提起をするたびに呼びかけて、少なくとも数人は出てきてくれたんですよ。それが今回は誰も応じてくれないばかりか、「なんで俺に電話してきたんだ!」と怒られたり、「在日は経済活動だけをしていればいいんだ。これは一世からの教えだ」とこんこんと諭されたりしました。

――それは・・・

辛淑玉さん

 怖いんですよ。今の日本の状況が本気で怖いんだろうと思います。でも今の状況があるのは、朝鮮人にも責任があります。朝鮮学校が攻撃されようが、政治家の差別発言があろうが、多くの朝鮮人は正面から抗議をせず、嵐が過ぎるのを待っていたんですから。「やり過ごせばなんとかなる」と思っていたのかもしれません。だけど、実際には悪くなる一方でした。闘わなかった結果としての「今」なんです。

 もちろんマイノリティとして沈黙を強いられたということもあります。だけど、ほかの在日外国人の人たちに比べれば、十分に発言する力はあります。日本語はわかるし、大学の教授や弁護士、医者だっている。マイノリティのなかでもそれなりの地位を築いてきたわけで、発言する力だってあるんです。

 そうしなかったのは、私たち在日朝鮮人のなかに「自分のことさえやっていればいい」という意識があったから。社会の一員になっていなかったということだと思います。本当に自分がこの社会の一員であるならば、この社会の未来をどうしていこうかと考えた時、国境や民族を超える発想や行動が出てくるはず。でもそれが足りなかったし、そういう思いがあったとしても、同じように思っている人たちと連携してこなかった。

 私だって同じです。朝鮮人と出会うことがほとんどなく、日本人のなかで孤軍奮闘してきました。だけど、ここまで多くの同胞が、この問題に触れようとしないとは思わなかった。