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生活保護制度は私たちの「生きる権利」です 雨宮処凜さん

2013/05/02


受けられるのに受けていない人が圧倒的に多い

雨宮処凜さん

――生活保護については特に危機感をもち、本(『14歳からわかる生活保護』)も書かれましたね。

 貧困問題に関わるなかで、生活保護に対する世間の認識と実態がかけ離れているのを常に痛感していたので、それを改めたいと思ってきました。活動や取材を通じて貧困状態に陥った人に多く会ってきましたが、本人の力だけではどうにもならないことがたくさんあるんです。
 たとえば「探せば仕事はいくらでもある」と言う人は世代を問わずいると思います。確かに仕事はあるけれど、1ヶ月先、3ヶ月先にはどうなっているかわからない派遣の仕事の連続で、派遣先の業績がちょっと悪くなるとすぐに切られて寮も追い出されてしまう。たとえ正社員として採用されても、長時間労働や過酷なノルマやプレッシャーでとても長く勤まる仕事じゃなかったり。安定した仕事に就きたいと思っても、とにかく働き続けないと生活できないから、時間をかけて探す時間もありません。それに、ずっと派遣で働いてきた人に「安定した仕事」に就くチャンスはめったにありません。これらは本人の責任ではなく、労働政策の問題ですよね。

――働く人が圧倒的に不利な労働状況のなかで生活保護が切り下げられましたが、支持する空気のほうが強かったように感じました。

 生活保護って、「あそこの家は」とヒソヒソ言われるようなマイナスイメージがありましたが、最近は不正受給の報道で「働けるのに怠けている」「ズルをして贅沢をしている」と強調されているように思います。でも本当は誰もが使う権利をもっている、当たり前の制度なんですね。
 よくある誤解をいくつか正しておきたいと思います。まず不正受給ですが、2010年の不正受給は生活保護費として支給された額の0.4%以下で、1件あたりの金額は50万8000円。これは過去10年で最低の数字だということです(※)。もちろん不正はいけませんが、100%近くが適正に利用されています。
 一方、生活保護を受けられる人がどれだけ受けているかという捕捉率をみると、2割から3割にすぎません。「受けられる人」というのは貧困状態にある人のことですね。具体的にいうと、一人暮らしの場合、月に約9万3000円が「貧困ライン」で、これ以下の収入の人は生活保護を受けられます。にも関わらず、ほとんどの人が受けていないというのが現実です。また、「貧困ライン」以下で生活している人の割合、すなわち貧困率は2009年でいえば16%で、6.5人に1人が貧困という状況です。
 その結果といえるのではないかと思いますが、日本では毎年、数十人もの人が餓死しています。6.3人に1人が貧困といえる状態で暮らしているのが今の日本社会です。だからこそ、「死なないための方法、情報」を知っておくことが大切です。生活保護はその最たるものです。
 死ぬか生きるかというところまでいかなくても、生活保護はけっこう「使える」制度なんですよ。たとえば失業して寮を出ないといけないけどお金がないという時、引っ越し代が出ます。また、ホームレスになってしまうと携帯も契約できないし、仕事なんて絶対に見つかりません。だからまず住所を失わない方法としても使えます。そういうことがちゃんと伝えられていないのが本当にもったいないと思います。

※「(2010年の)全世帯での不正発生率は1・8%、保護費の総額に占める不正受給額は0・4%。不正1件あたりの金額は50万8000円で過去10年で最低だった」(2012年7月6日 朝日新聞)