ユニバーサル社会の実現は私たちの意識次第 阿部彩さん
2013/03/07
――阿部さんは「貧困」に注目され、研究されてきました。改めて、阿部さんの考える「貧困」とはどういう状態なのかを教えてください。
あえてひと言で表現するとしたら「展望がない」ことでしょうか。これから先、状況がよくなっていく見込みが全くない状況かなと思います。
ただ、今の社会状況で「貧困とは何か」を突き詰めても、あまり生産性がないと思っています。というのも、「これが貧困ですよ」と言うと、多くの人が「自分だって同じだ」と感じるのが今の状況だと思うんですね。たとえば「展望がない」と言えば、「自分も非正規雇用で働いていて、いつ解雇されるかわからない」という人もいるし、「正社員だけど過労で体を壊した。休みたいと上司に話したら、辞めたら?と言われた」という人もいます。立場が違っても、未来に夢や希望がもてず、自分の心身を尊重することができない状況にあるのは同じ。そんななかで「貧困とはこういう状況です。貧困に陥った人にはこんな支援や仕組みが必要です」という話は通用しないと思うんですね。
――「自分だって大変なんだ」、さらには「自分のほうが大変なんだ」と感じている人が増えてきているということでしょうか。
そうですね。つい2、3年前までは「貧困に陥った人は、努力が足りなかったんだろう」といった自己責任論が横行していました。それはたとえば、通勤途中に野宿をしている人を見ている会社員のような視点です。自分とその人との間には歴然と差があり、野宿をする状況になったのは自己責任だ、自分はああはならないと考える。社会問題であるという認識がないのは大きな問題なのですが。しかし、今は自己責任という発想に行き着く前に、「自分だって、野宿はしていなくても、大変なんだ」と考える人が増えてきているのかなと。
昨年、生活保護を受給している人に対する激しいバッシングが起きましたが、あれも「生保を受けるような状況になったのは自己責任なんだから、社会が面倒をみる必要はない」というよりも、「自分たちだって苦しいのに、なんであの人たちにはお金が支給されるのか」という"不公平感"からきていると感じます。これは社会全体が貧困化していることの表れで、もはや「その人の立場になって考えましょう」という"思いやり"や"理性"に訴える方法ではどうにもならない、非常に難しい状況だと思います。