ユニバーサル社会の実現は私たちの意識次第 阿部彩さん
2013/03/07
――たとえば生活保護を受給しているシングルマザーに対し、「男が出入りしている。不正受給ではないか」といった"通報"が少なくないそうです。制度を利用している人としていない人の間を分断する状況を打開するにはどうすればいいのでしょうか。
いわゆる社会的弱者に対する、所得制限をつけているような制度は常に批判にさらされます。私は、「社会のユニバーサル化」が必要だと考えています。ベーシック・インカム(最低生活保障。政府がすべての国民に対して無条件に必要最低限の生活費を支給するという構想)のような現金給付の制度に限らず、医療や福祉など公的な制度全体を「どんな人もスムーズに利用できる」ユニバーサルな視点で見直すのです。
本来、医療や福祉の公的サービスは誰もがアクセスできるという前提で制度設計がなされています。けれど実際には、しんどい人ほどアクセスできないということが起きています。たとえばホームレスの人は住民票がないために選挙で投票ができません。ハローワークで仕事を得るには連絡先の電話番号が必要なので、電話をもたない人は求職活動ができません。銀行口座がなければ、年金を受け取れません。
日本は「国民皆保険」だといわれています。しかし全国保険医団体連合会の調査によると、経済的な理由から治療を中断したり、検査や治療、投薬を断る人が増えているとのことです。国民健康保険料を滞納すると、健康保険証が取り上げられ、代わりに窓口負担が100%となる「資格証明書」を発行されます。これでは無保険状態です。また、保険証があったとしても3割の自己負担がきつく、受診を控える人が少なくありません。
こうした貧困状態にある人を支援するために、たとえば無料で受けられる公的な職業訓練プログラムがあります。しかし貯蓄のない人は仕事を休めないため、受けられません。母子家庭を対象とした高等技能訓練促進費など生活費を一部保障する制度もありますが、規模も使い勝手も十分ではありません。
すべての人がすべての制度やプログラムを利用でき、すべての人にアクセスが保障されているユニバーサル社会への移行が必要です。
――貧困については、役割や仕事、居場所がない状況も貧困だと指摘されていると同時に、「お金がない」ということがそうしたものを奪っているとも言われていますね。
はい。昔は、お金はないけど居場所や役割があるという人もいましたが、今はお金がないと居場所も役割も得られません。たとえば町内会や趣味のサークルに所属するには会費を払わなければなりません。人づきあいには冠婚葬祭や手みやげなどにお金がかかります。場や季節に応じた服装も必要です。離れた所に住む友人に会いに行くには交通費もかかります。社会とつながっているためにはお金が不可欠なのです。逆にいえば、お金がないことによって人とのつながりが絶たれ、居場所や役割をなくしてしまうわけです。人はただ食べて寝るだけでいいというわけではありません。「自分はここにいていいんだ」と思える場所=居場所があるということは、「自分は生きていていいんだ」と思えること、その人の尊厳に関わることです。
貧困について論じるなかで、「問題はお金がないことだけではありません」という言い方をしてしまうと、お金がないことが貧困じゃないとか、お金のことはたいした問題じゃないというふうにとらえられる恐れがあります。お金がないことはやっぱり大きな問題であることはしっかりと押さえておきたいと思います。