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民主主義の"面倒くささ"を引き受けていきたい 湯浅誠さん

2012/11/16


湯浅誠さん

社会を下支えしている人たちに正当な評価を

――いろいろなところで生まれた矛盾やひずみが最終的に市民運動と市民を対立させるという形になってしまうのが何とも残念ですが。具体的にどう"引き受け直し"ていけるのでしょうか。

 言うは易しで実際には難しいところですが、一人ひとりが異質な人たちとの対話に積極的に関与していくしかない。そういうことを少しずつやっていくしかないんですね。だけど「みんなで民主主義の面倒くささを引き受け直すにはどうすればいいのか」みたいなテーマは、非常にのんびりした話みたいになっちゃうんです。「選挙はいつあるんだ」みたいな話をしている時に、「結果が出るのが5年先か10年先みたいな話をしてどうするんだ」と。

――たとえば介護や育児は社会において軽視されてきました。すぐに結果は出ないし、お金を生み出すものでもない。とても大事な部分なのに軽視されているが故にそこで働く人たちの賃金も安く抑えられています。一方で少し景気が悪くなるとすぐに「公共事業で経済の活性化を」といわれます。

 一番の殺し文句は「経済にあわない」という言い方ですね。しかし介護や育児、あるいはエネルギー問題に社会の力を投入することは経済的にあう話だと私は考えています。日本という国が成長の折り返し地点を過ぎたのは確かです。これからはマイナス成長もある程度受け入れながら、より多くの人がささやかでも幸福を実感できることが社会全体を支える力になっていくのではないでしょうか。日本のGDPは大企業などだけが生み出しているのではありません。介護や子育て、DV、ひきこもりなどあらゆる分野でさまざまな困難を抱える人を支える人たちのおかげで社会がどうにか持ちこたえている部分は大きい。そうした人たちを正当に評価できない時、社会は本当の意味で衰退していくのだと思います。

――著書(『ヒーローを待っていても世界は変わらない』)で、「言い放つだけでは現状は変わらない」「気付いた人が責任者」だと言われていますが。

 もちろん、私にも返ってくる言葉です。2012年は日本のあちこちで起きている問題が特に顕在化している大阪で活動することにしました。何かやりたいけど自分に何ができるのかわからない、あるいはやりたいことはあるけどお金も人脈も場所もないという人と一緒に考えて、必要な支援を提供するという活動です。

――湯浅さんご自身、ヒーローとしてかなり期待されているのでは?

 私はヒーローなんか引き受けられません。そもそも野宿する人たちのために野宿者運動をやってたわけじゃない。自分がイヤだからやっていたんです。これからも「当事者」として活動していくことに変わりありません。

――ありがとうございました。

(2012年8月インタビュー 取材・構成/社納葉子)

湯浅誠 プロフィール
1969年、東京都生まれ。社会活動家。反貧困ネットワーク事務局長、NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」理事。95年から野宿者の支援活動を始め、貧困問題に関する活動と発言を続ける。2009年~12年、内閣府参与。著書『反貧困――「すべり台社会」からの脱出』『どんとこい、貧困!』『ヒーローを待っていても、世界は変わらない』