性暴力は魂の殺人だ
2012/08/23
被害者として直後にSOSを出せる場がなかった山本さんは痛切に思う。「こうした救援センターの存在をみんなが知っておける、そういう世の中になってほしい」と。また、そこまで行けない人のために、一カ所に電話すればホットラインで近くの産婦人科など必要な病院にネットワークできる仕組みづくりができればと願っている。
現在、PANSAKUの支援ライブは、加藤治子さんら専門医の講演などとの二部構成になっている場合もあれば、単独のライブだけであったりと形はいろいろ。歌の合間に山本さんのレイプ被害の体験が語られ、もしかして参加しているかもしれない客席の被害者に向けて「あなたは悪くない、一人じゃないよ」とメッセージが送られる。
「性暴力について、みんなでオープンに話し合う場はなかなかありません。だからこそ、一人の体験者が実名で被害を、それも自分の言葉で語ることは社会的なインパクトがあると思う。目の前の人がそんな体験をしたんだと思うことで、もし自分が、自分の身近な人が被害に遭ったらと考えるきっかけになってほしいと思ってます」(山本さん)
一方で、パートナーのサクさんは、寄り添ってきた友人として「専門家だけじゃなく、友人や家族など身近な人ができることがある」と呼びかける。性暴力による傷の深さを「人の根本的な土台となっている部分まで一瞬にしてドカンと崩されるような体験であり、長い年月をかけても、ゆっくりとしたペースでもう良くなったかなと思うと、またガクンと落ちてを繰り返す、回復にとても時間がかかるもの」と表現し、そばにいたからこそ見えてきたこともあったと伝える。
「それは『共感』と『共有』です。共感とは、よき理解者になること。当事者の本当の気持ちは被害を受けていない人間には理解できないかもしれないけれど、理解する"努力"はできる。そんな気持ちでそばにいれば『今はこういう状態』『今このプロセスを乗り越えたんだな』などの状況が分かってくる、それが共有です。そして『小さなステップが踏めそうだな』と感じたら寄り添おうと思う、そういった時間がとても大事だと痛感しました」。そうした中で「ぱんちゃんは大事な存在だよ」「大切な人、必要なんだよ」という言葉を重ねっていったというサクさん。
「被害者が本当にサポートされる社会づくり、加害者を生まない社会をつくっていこうと思うなら、それは決して専門家だけじゃなくて、むしろ友だちや家族といった身近な人たちがまずどう反応するか、どう関わるのかが大事だと思います」
心と身体に計り知れないほどの悪影響を及ぼす性暴力被害。日常の生活ばかりか、その人の人生までを狂わせてしまうのだ。今も被害に遭いながら沈黙を守らざるを得ない人がどれほど存在することか。これだけ情報過多の社会であっても、その実態はつかめないのが現状である。
「STAND」のエンディングから......。「?自分を責めないで あなたは悪くない 自分を責めないで 心はあなたのもの ありのままに行きてゆこう」。
(2012年7月インタビュー 取材・構成/上村悦子)
ギター&ボーカルの"ぱん"とカホン&コーラスの"サク"の女性アコースティックユニット。2008年に結成し、さまざまなライブイベントに出演。自分らしく生きるために必要な「心」をテーマに、特に中学~大学生など若い世代に向けた音楽活動を展開している。2010年にはぱんがレイプ被害者であることを公表し、以後、全国各地の性暴力被害者支援イベントでライブ講演活動も行っている。
ぱん(山本恵子)さん
愛知県豊橋市出身。日本福祉大学社会福祉学部卒業。18歳から独学で音楽を始める。またパンが大好きで、パン作り技術も独学で修得。パン作りを通した障がい者自立支援などに携わっていたが、現在は音楽活動が中心となっている。
サクさん
愛知県蒲郡市出身。幼い頃からピアノやマリンバなどあらゆる音楽に親しむ中、15歳からドラムを始める。蒲郡東高校卒業後シドニーの芸術学校に入学し、首席で卒業。現在は2児の母として、育児をしながら音楽活動を続けている。
24時間ホットライン 072・330・0799
加藤治子さん
阪南中央病院産婦人科医として、早くから「女性の一生を生活背景を含めて診ることのできる科」を目指す。DVや性的虐待に関心を寄せ、支援に関わってきた。2004年に「はるウィメンズクリニック」をウィメンズセンター大阪に開設。2010年4月からは「性暴力救援センター・大阪(SACHICO)」の代表。ウィメンズセンター大阪のスタッフでもある。また、性暴力被害者支援に関する講師として講演活動も行っている。
問い合わせ先
「ウィメンズセンター大阪」(月~土10~17時)
大阪市阿倍野区旭町2-1-1-123 ?06-6632-7011