性暴力は魂の殺人だ
2012/08/23
開設して3年目。以前のレイプ・強制わいせつでの診察は年間でも10人ほどだったが、開設後の初診人数は1年で78人、2年目で119人、電話件数は2年間で4835件となっている。この数字だけを見ても、開設の意義は大きい。
加藤さんは「性暴力被害は実にさまざまで、どう対応すればいいか難しいケースばかり」と話すが、かなりの成果が出つつあるようだ。
「こちらのできる限りのことをさせてもらい、ご本人が納得いく形で解決し、人としての尊厳を取り戻され、明るい表情になっていかれる姿を見るのが、我々にとっていちばん大きな成果。やってて良かったと思う時です」と顔をゆるませる。
他に、電話で話せただけでもラクになれたという人もあれば、診察をして妊娠も性感染症も心配ないことが分かり、心のケアもできて安心できたというケース、警察に行っても事件性がないと取り合ってもらえず、かえって二次被害を受けたが、弁護士に相談して相手に謝罪を要求して謝らせ、職場から立ち去ってもらうために辞職させ、ある程度の慰謝料も請求する形で解決したケースもある。また、警察に届けて起訴となり、裁判になった場合、裁判のフォローが必要なケースではスタッフが傍聴に行ったり、意見書を提出したりなど裁判支援も行われている。
これだけ充実した体制ができながら残念なのが、SACHICOの運営資金は、活動に賛同する人の寄付金やカンパをもとに設立された「アミーケ(女友だち)基金」のみで、公的補助はまったくないことである。頼みとしたい企業の助成金にしても、「DV防止法」が施行されたDV問題などと比較して、性暴力被害の支援については世の中の認識が低く、法律もないことで応募しても難しいと語る。
2012年版の「犯罪被害者白書」では、性暴力被害を受けた女性の7割が「誰にも話していない」という調査結果が出ており、心の傷を一人で抱え込み孤立する被害者の実態が浮き彫りになっている。そういう状況であっても、SACHICOに続いて、2例目となる「性暴力救援センター・東京(SARC)」がこの6月にやっと設立されたばかりである。こうした救援センターが各地に広がることを願わざるを得ない。
加藤さんによれば、ネックとなっているのは、センターとなる「病院」と「医師」。産婦人科のある病院内に、この問題に取り組もうという意欲ある女性の産婦人科医が必要となることだ。現在、若い世代の産婦人科医の7割が女性ということで、今後に期待したいところである。そのうえで不可欠なのは、草の根活動を続ける女性グループの協力であり、そこに公的資金が加われば、可能性は現実となるはずである。
さらに、加藤さんは「人格を踏みにじる形での性的な行為、性暴力は人権侵害であるとする社会的意識がもっと強くなっていかなければならない。また、こういう問題に対する刑法の改正なり、法律的なバックアップができることを願っています」と結んだ。