性暴力は魂の殺人だ
2012/08/23
もし、今、自分自身が、あるいは身近な人が性暴力の被害に遭ったら、どうすればいいのだろう? 山本さんは8年前、何のサポートも受けられなかった一人だが、被害直後から総合的な支援を行ってくれる日本初の救援センターが2年前大阪に誕生した。「性暴力救援センター・大阪(SACHICO)」である。
被害に遭った時、できるだけ早く医療的、心理的な支援を受けることが心身の回復にもっとも重要として、2010年の春、大阪府松原市の阪南中央病院内に設立された。「Sexual(性)Assault(暴力)Crisis(危機)Healing(治療的)Intervention(介入)Center(センター)Osaka(大阪)」の頭文字から、SACHICO(さちこ)と呼ばれている。
24時間体制のホットライン(072・330・0799)に電話をすれば、常駐の支援員が寄り添って心のサポートをし、24時間体制で産婦人科医療を受けられる。さらに、同じ場所で警察の捜査や弁護士などによる法的な支援も行われる。代表で産婦人科医の加藤治子さんは言う。
「性暴力被害の場合、72時間以内に緊急避妊ピルを飲むなどの緊急避妊対策が必要です。並行して、性感染症の検査や外傷の診察、加害者を認定するための3日以内での証拠採取なども必要になってくる。また、妊娠が分かって来院する方には、すぐに中絶手術も行われる。次の段階では、警察や弁護士、カウンセラー、ケースワーカー、精神科医などとも連携し、身体はもちろん心の回復まで総合的にサポートするシステムとなっています。大事なのは、動揺している被害者が動き回ることなく、一カ所でこうした総合的な支援が受けられるという体制です」
ただし、警察への通報は当事者が希望した場合のみ。性暴力被害は自己決定権を奪われる行為であるため、被害者があくまでも「自分で選ぶ」ことに重点をおいた支援となっている。また、被害直後に安心して駆け込めるように、待合室や診察室は一般の産婦人科外来とは区分されたレイアウトに。人目につかない安全な場所で被害についてもゆっくり話せ、必要なケアも自分で選べることで大きな安心へとつながっていくのである。
阪南中央病院で産婦人科医として37年になる加藤さんだが、スタッフも含めDVに対する認識が高く、これまで他院よりも多くのDV被害の患者を支援してきた実績をもつ。SACHICOのような体制ができた背景には、支援サイドの女性たちの熱い想いが存在した。「長年にわたって数多くの性暴力被害者と接し、その苦悩や痛みを目の当たりにしてきた中で、産婦人科医としてもっと深く性暴力の問題に取り組まなければという想いをもち続けていました」。
加藤さんらは、同じ想いの産婦人科医や弁護士、草の根活動を続ける女性グループ、病院のスタッフなど多くの仲間たちと勉強会を続け、2009年4月には準備室を開設。病院の同意も得て、1年後の2010年4月「性暴力救援センター・大阪(SACHICO)」をオープンさせた。
「最初は被害者支援のためのネットワークを作ろうとスタートしました。でも、被害者はだれにも相談できず、ずっと我慢して過ごされる方が多いという現実から、相談したい時すぐに電話がつながり、そのまま支援につながる体制がどうしても必要じゃないかと。しかも、女性の救急医療の場所として病院の中に創る必要があるということから現在の体制となりました」