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IT革命は成功するのか。カギを握るのは私たち自身です

2001/05/02



娘が生まれた時、「障害児を育てるためにはどうすればいい」なんていう情報は、育児書のどこを探しても一行たりともありませんでした。今は、インターネット上で「生まれた子どもにこんな障害があった」と書いた途端、いろんな人からアドバイスや励ましのメールが来る時代です。そのお母さんのショックが完全に消えるわけじゃないけど、目標や希望が持てますよね。これこそがIT、情報技術のすごいところです。インターネットの登場によって、個人でも社会全体でも支え合うことがぐっとスムーズになりました。その出発点にあるのが情報だろうと思います。
これをうまく使うには、SOSを平気で出せることが肝心。助けを求めることを恥ずかしがらない、自分ができない部分は徹底的に人に助けてもらう。そのかわり、できることを提供すればいいと私は思っています。そのためには、まず自分に何ができて何ができないかを知ることが必要です。これ、両方とも知るということは、ごっつい大事ですよ。
そのうえで「私、これができないから助けて」と真剣に言えば、10人に1人、100人に1人は「ほんなら助けてあげよう」と言ってくれる人がきっといます。

今こそ障害者福祉の転換期

10年前のスタート時は何かとうさん臭い目で見られていたプロップ・ステーションですが、今は全国各地で同じ気持ちを持つ人たちが活動を始めています。そのコーディネート機関として、どこまで社会的責任を果たしていけるかということがこれから試されていくのだろうし、大きな責任だと思っています。つながることによってそれぞれの目標を達成できるような組織でありたいですね。

また、ここ数年、日本版ADA法(American with Disabilities Act、アメリカ合衆国の障害者法。障害をもつ人に機会の均等・平等を保障するために、あらゆる面で細やかな規定が定められている)ををつくろうという動きが盛んになっています。私たちもずっと国に働きかけてきたのですが、今年こそ制定に向けて協議会を設置したいと考えています。政府、官僚、NPO、そして企業の代表者会議や超党派の議員連盟などをつくって、まずアメリカでのADA法の成立経緯、その精神などを真摯に学び、日本流にどうアレンジしていけばいいのかということを話し合い、1年半から2年ぐらいかけて具体的に踏み出していきたいですね。

この法律ができれば、日本でも障害者福祉の概念が根本的に変わるでしょう。ただし、機会の平等と同時に、とても厳しい部分も出てくるんですよ。今まで、障害のある人といえば「守られるべき、善なる人々」というイメージがありました。でもADA法はハッキリと「障害の有無と人間性は関係ない」という前提を打ち出していますから。
私の友達で、事故で車椅子生活になったのに懲りずにまだ車を飛ばしているというヤツがいます(笑)。ある時、車で交番に突っ込み、一緒にいた友達は留置場に入れられました。ところが彼は「おまえは帰ってもいい」と言われたそうです。日本の警察署って階段ばっかりで、車椅子では建物のなかにすら入れないからです。
アメリカは違うんですよ。パトカーにもリフト付きがあるし、留置場にも車椅子用トイレがある。それが当り前なんです。

ADAの精神を日本に入れるというのは、そういうことも含めてなんです。障害のある人たちに何か特別な権利があって、それをみんなで支えましょうということではありません。「障害者にもっと手厚く」という法律だと捉える人もいて、そこを理解してもらうのはとても大変かもしれません。でも、本当の意味での「権利の平等」とは何かを考えるいい機会ですよね。

IT革命の意義も、じっくり考える必要があると思います。すごくよくできる人がよりできるようになり、お金持ちがもっとお金持ちになり、できない人・お金持ちじゃない人はますますそれに拍車がかかるという、いわゆる弱肉強食を強めていくのだったら、それはIT「革命」とは呼べないんですよね。そうじゃなくて、より多くの人がそれぞれの身の丈に合った形で、社会を支える一員としての誇りを持つための手段になって初めて、IT革命が成功したと言えるんじゃないでしょうか。今、日本のIT革命がどちらの方向に進むのか、その分水嶺に来てると思います。政治をしている人も、行政の人も、ビジネスしている人も、あるいは私たちNPO、そしてチャレンジド自身も、どの方向に向かって進んでいくのかを自分たちの身体で表わしていかないといけませんね。

竹中ナミ プロフィール
’48年神戸市に生まれる。
長女(現在29歳)が重症心身障害児であったことから 日々の療育のかたわら障害児医療・福祉・教育について 独学、また手話通訳・重度身体障害者施設での介助・介護 ・おもちゃライブラリーの運営など各種ボランティア に20年以上携わる。
’92年、プロップ・ステーションを設立し、代表に就任。‘98年9月、厚生大臣認可の社会福祉法人格を取得、理事長に選任される。
現在、各行政機関の委員や大学講師なども務め、チャレンジドの社会参加と自立をさまざまな形で支援している。’99年、エイボン女性年度賞 教育賞受賞。
著書:『プロップ・ステーションの挑戦』(筑摩書房)等。
ホームページ: http://www.prop.or.jp