消費行動も納税のひとつ
「チャレンジドを納税者にできる日本」というキャッチフレーズを掲げたこともあって、活動を始めた10年前はずいぶん「うさん臭い」などと言われました。けれど私は、稼ぐ意欲も潜在能力もある人が、障害や高齢を理由に「働けない人」になってしまっているのが残念で仕方なかったんです。「働く」というのはお金だけの問題ではありません。生きがいや誇りという、人間にとって大事なものも含まれているんです。それを経済や社会のシステムのなかにきちんと位置づけたかった。またそういうシステムをつくらなければ、これからの高齢化社会は乗り切れないと思います。
納税というと、いわゆる所得税を思い浮かべる方が多いかもしれませんね。でもプロップがいう納税とは、それだけじゃないんですよ。たとえば単発のお仕事をして、いくばくかのお金が入ったとします。そうしたら何か買う、つまり『消費者』となります。当然、消費税も払うし、そこで『経済の活性化に貢献できる人』になるわけです。
納税者というのは、一定の額を稼いで所得税を納めている人だけを差しているんじゃないんです。わずかでも稼いだ時には、必ず新たな消費行動が起きる。そうしてひとりでも『よき消費者』を増やすというのも、ひとつの納税のあり方ですよね。
実際うちのメンバーは、お金が入るとグレードの高いパソコンを買ったり、ソフトをバージョンアップしたりしています。次によりいい仕事をするためには、自分を磨かなければならない。そのためには必要な道具を買う。これも立派な消費行動だと思います。そういう人たちが続々と増えてきていますから、そういう意味ではキャッチフレーズが実現できつつあると言えるでしょうか。
私たちの活動に共感してくれる人の輪も拡がってきました。全国各地から講演の依頼がきたり、見学に来られたりします。
よく「プロップ◯◯をつくりたい」と言われるんですよ。「傘下に入れてください」「支店出させてください」とか、「何で入れてくれないんですか」って詰め寄られたり(笑)。でもプロップ・ステーションは「おもろく」(面白く)というのを重視したりと、関西ノリでやっているんですよ。そのカラーをそのまま他の地域へもっていっても通用しない。その土地独特のカラーやスピードってあるじゃないですか。だから「ノウハウはいくらでも盗んでください。でもグループそのものは、ご自分の地域にあったカラーのものをつくった方がいいですよ」ってお勧めしてるんです。
そうしたらいつの間にか『北海道チャレンジド』『千葉チャレンジド』と、あちこちで新しいグループが生まれて、地域で定着されているようです。いずれプロップ・ステーションともネットワークでつながって、さらに仕事や自己表現の場が拡がると思うと、とても嬉しいですね。
「お上頼み」の感覚はもう古い
最近、ホームページに『在宅チャレンジドワーカー募集』というコーナーを設けました。すると2週間で予定の70人を越える応募があったんです。全国各地から「在宅で仕事がしたかったんです」というメールがきて、びっくりしました。
これは法的にはグレーゾーンのやり方です。でも法律なんて最後についてくるもんやと思ってるから、「とりあえずやっちゃえ」と(笑)。それでこれだけの反響があって、在宅で仕事をしたという層が拡がってくれば、「インターネットって、そんな使い方もあったんだね」ということで国のIT政策も動くんじゃないかと期待してます。
プロップの活動が知られるにつれて、仕事の依頼や問い合わせも増えてきました。私たちがチャレンジドに代わって価格や内容などを精査させていただいてから、担当を決めて受注します。最近、オンラインで「仕事あります」といううたい文句に飛びついて騙されたというケースが多いですよね。そういう結果にならないよう、コーディネーションする機関は必要だと思います。それを国や行政に任せようというのではなく、NPOと企業が力を合わせてこういう組織を育てていくというのが、これからの流れではないでしょうか。「なんでもかんでもお上頼み」という感覚は、もう古いと思いますね。
一時期、『企業メセナ』や『企業の社会貢献』という言葉が盛んに使われましたよね。社員が海岸でゴミ拾いのボランティアをする様子が報じられたりしました。でも私は「仕事を出す」ということそのものが、一番大きな社会貢献になると思うんですよ。行政も企業も、本業じゃないところで支援するんじゃなくて、アウトソース(外注)する仕事が10あれば、そのうち1つはこういう組織を通じてチャレンジドに出すとか、高齢者に回すということをやってほしい。これって、企業にとって一番やりやすいことですよね。
ここで法律の後押しが欲しい。法律に、プロップのような組織を通じて年間何百万の仕事を出せば雇用率に換算されるというような一行を加えることによって、あっという間に仕事は世の中に出てくるし、そこに参加できるチャレンジドはたくさんいるはずです。
IT革命には、数字や形にとらわれない柔軟な考え方が求められると思います。