お年寄りに「生きててよかった」と思える暮らしを ゴジカラ村
2012/03/30
最初に案内されたのは、緑の木立につつまれるように建つ特別養護老人ホーム「愛知たいようの杜」だ。入ってすぐのリビングルーム横で目に止まったのは、2㍍はあるだろうと思われる男性のシンボルを象ったご神体である。
「当初、いろんな人が集まると小さなケンカがよくあったそうです。でも、みなさん、スケベな話をするとなぜか落ち着かれる。そこで平和につながるからと、近くの神社からご神体をわけてもらったと聞いています」
ゴジカラ村の各建物は木を極力切らないように、言い換えれば木々に合わせて建設されており、個室の形もまちまちだったり、廊下も微妙に曲がっていたり。特養の内装も、ガラス窓が大きく、無垢材をふんだんに使った温もりのあるゆったりとした造りだ。
「入口が1カ所ではなく各所にあるので開放的ですし、不揃いでいびつな空間が安心感を生むようです」
「杜人(もりびと)さん」と呼ばれる入居者が10人ほどのユニットで生活しているほか、ショートステイも受け入れている。
「ここではお年寄りの食べこぼしなどの日常のお世話も、木の床だからひと手間かかります。また、廊下も真っすぐじゃないので見通しがきかないため、見守りもしにくといった非効率なことばかり。スタッフは大変だけど、それがゴジカラ村なんです」
2階には木の造形が美しい喫茶店があって、外部からの出入りも自由。村内の食堂や喫茶店はアルコール可で、入居者家族のボランティアで月に1回、即席居酒屋「ベロベロバー」に変身するそうだ。
桜が美しい中庭を間に託児所「コロポックル」と隣接しており、幼児の声がどこからか響いてくる。驚いたのは、裏庭で放し飼いにされている犬、ヤギ、鶏、ウサギなどの動物たちだ。お年寄りも、子どもも、動物もが自然に「混ざる暮らし」となっている。
「混ざりあうと、わずらわしいこともいっぱいあります。でも、元気なお年寄りは動物の世話をすれば、役割ができて生活に張りが出る。それに、介護保険では何事もお金に換算され、職員が入居者1人をケアできるのは1日2時間ほど。残りの22時間のほうが長くて寂しいはずだから、動物でもだれにでも相手をしてもらおうということなんです」
さらに、職員の世話になるだけではお年寄りはいつも「すみません、ありがとう」と言うばかりで「立つ瀬」がない。混ざって暮すことで小さな摩擦が起きれば、お年寄りも人に意見したり職員に声をかけたりと、その時ばかりは目を輝かせ「立つ瀬」ができるといった、どこまでも入居者側に立った人間くさい仕組みとなっている。
1年前に増築されたという特養の新館「杜っとハウス」では、屋上で野菜や花を育てようと畑が作られた。入居者のもとを訪れる家族に、手入れをしてもらおうという狙いだ。「でも、畑に水やりをした水が流れて、下の物干し場の洗濯物をぬらすって文句が出てるんです」と田中さん。問題が起きれば、起きたその場で考えて、話し合い、解決していくのが、ゴジカラ村流だそうだ。
続いて、「もりのようちえん」を挟んで反対側にあるケアハウス「ゴジカラ村・雑木林館」へ。土地の傾斜がそのまま生かされているため、建物は迷路のような渡り廊下でつながれている。
「木は生きものですから、切り時にはいつも大騒ぎ。枯れてきた木は早く処理しないとノコが利かなくなるんです」と、自然の手入れも職員の仕事となる。
ケアハウスは、鉄筋コンクリート造り4階建てだが、内装は木の香り漂うログハウス風。60歳以上の自分で身の回りのことができる50人が暮らしている。
2階にある食堂もひとひねりあり。名古屋市内のふぐ料理店のスタッフが入っていて、朝昼晩の定食以外に「今夜はちょっと刺身で一杯......」というのも叶う粋な計らいとなっている。
「外部の方も利用できますから、『おいしいふぐでも食べに来ないか』と入居者のご家族やお友だちをたびたび呼び込もうという作戦でもあるんです」
ユニークなのは、村の奥にある「きねづかシェアリング部」だろう。市内の定年退職した人たちに現役時代の得意分野、つまり「昔とった杵柄」を大いに活用してもらおうというもの。デイサービスのバスの運転や、受付、車いすの清掃、施設の見回りなど、有償ボランティアとして毎日約3時間程度働くシステムである。現在、世話人が7人、登録者は約20人。地域のボランティアやコーラスグループにも参加して活躍している。