ふらっとへの手紙 桜井秀人さん fromLGBT vol.2
2014/05/23
ぼくはおそらく日本初の"LGBTブライダルプランナー"です。この肩書き自体、自分で考えたんですけど(笑)。
本業は別にあります。結婚式に携わるきっかけは、数年前に本業がちょっと危なくなったことでした。その時、あらためてこれからどうやって生きていこうかと考えたんです。
子どもの頃から企画をするのが好きでした。「こんなことしたら面白いんじゃない?」と考えるのが楽しかったし、自分のアイディアでクラスが盛り上がるのがすごくうれしかったんですよ。
その延長で、仲のいい友人たちから結婚式の二次会の企画や余興をよく頼まれていました。回を重ねるうちに「本格的にやりたい」という気持ちが高まってはいました。
そんなタイミングで人生を見直すことになり、ふと「ブライダルプランナー」というイメージが浮かびました。やるだけやってみようかと専門学校に通って資格も取りました。仕事とするには何か自分ならではの持ち味をアピールしなきゃといろいろ考えているうちに「そういえば同性婚を手がける人がいない」と気がついたんです。
ぼくはバイセクシュアルです。思春期の頃には自分が男性にも恋愛感情をもつことは薄々気付いていました。でも自分を異性愛者だと思おうとしていて、つきあう相手も女性ばかりでした。
20歳を過ぎる頃、ある男性を好きになりました。とまどいましたが、好きになった男性への気持ちを消すことはできませんでした。その時ようやく「やっぱり自分は男性にも恋愛感情をもつんだ」と認められるようになったのです。それからはバイセクシュアルというセクシュアリティを生きています。
最近はセクシュアルマイノリティ(性的少数者)がLGBTと表現されることが多いのですが、セクシュアルマイノリティはレズビアンやゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーだけではありません。LGBTのなかでも性的指向のあり方は幅があり、多様です。
ぼく自身、ゲイの人たちとのつながりはありましたが、レズビアンやトランスジェンダーの人とはまったく接点がなかったし、どうすれば出会えるのかもわかりませんでした。だからセクシュアルマイノリティの人たちのブライダルを手がけられるブライダルプランナーになろうと思った時、セクシュアリティについて一から勉強したんです。
一方で、活動も広げてきました。性的少数者の存在と文化を誇りをもってアピールするプライド・パレードへの参加が始まりでした。2013年秋の関西レインボーパレードにスタッフとして参加し、たくさんの人とのつながりができました。
このパレード、3年前は沿道から観ているだけでした。まさか自分がそういう活動をするなんて夢にも思いませんでしたが、本業が危なくなったおかげで――"おかげ"というのも変ですけど(笑)――人生が広がりました。
ただ、自分がバイセクシュアルだということは両親には話していません。結局、本業が持ち直したので今も続けているのですが、仕事関係の人たちには話している人と話していない人がいます。
女性とつきあっていた時期もあり、みんな異性愛者だと思い込み、自分もそうふるまってきました。LGBTに関する知識も情報もない両親や仕事関係の人たちにカミングアウトしたら、たぶんすごく動揺させるし、そのフォローをするのもきつい。ですから生活と活動を分けることを選びました。
中途半端だと思う人もいるかもしれませんね。でも異性愛者の世界も同性愛者の世界も知っている自分だからこそできることがあると思うんです。そのひとつが同性婚。実質的には夫婦関係にあるセクシュアルマイノリティの人たちはたくさんいますが、「自分たちは結婚できない」と思い込んでいます。
今の日本では法律婚はできませんが、結婚式は誰でもできます。ぼくは企画や司会、ブーケ製作ができるし、料理やすてきな会場、ヘアメイクなどは"LGBTフレンドリー"(セクシュアルマイノリティに理解や共感があること)なプロとのネットワークができつつあります。結婚式をきっかけにセクシュアルマイノリティと異性愛者がつながれば、お互いの世界が広がるじゃないですか。孤立しがちなセクシュアルマイノリティが家族や友人に祝福される場ができれば、絆が強まって孤立感は薄まるのではという思いもあります。
夢はどんどん広がるんですが、ブライダルはまだビジネスとしては一件も手がけていません。幸い本業があるので、今はパレードや"LGBT成人式"などのイベントをスタッフとして支えたり、自分でイベントを企画したりするのが中心です。最近は講演の依頼も増えてきて、先日はブライダル協会でお話しさせてもらいました。関心をもってくれる人は確実に増えているので、ぼくももっと勉強して、多様なセクシュアルマイノリティの人とつながって、その声を伝えていけたらと思っています。その結果として"結婚式"があれば一番うれしい。
今はブライダルプランナーの前にLGBTをつけていますが、つける必要がなくなるぐらいにセクシュアルマイノリティの結婚が"普通"になってほしい。それがぼくの夢であり、目標です。glitter(キラキラ輝く)と名付けたオフィス名にはそんな思いをこめました。(2014年4月談)