ふらっとへの手紙 「クローバー」代表 藤田和子さん vol.3
2014/03/27
若年性認知症は早期診断・早期治療が大切だといわれますが、実際は自分自身で異変を感じても誰にも相談できず、社会生活ができる間は何とか頑張り通し、周りが気づくようになって受診する人が多いようです。
しかし、私のように早期に受診しても、初期診断や治療の必要性を知る医師は少数で、私の場合も治療が始まったのは発症から1年3ヵ月後でした。
不信感をもちながらも総合病院を再診したのは、初診から1年後の2008年5月。案の定、私が毎日の混乱する状況を訴えても、医師は「まだしっかりしてるんだから」と言われるばかり。それよりも私の最終学歴や、学生時代に授業についていけたかどうかなど筋違いの質問をして、私が人として劣っていることが問題かのような言葉を投げかけられました。1年待てば治療が始まると信じていただけに、認知症治療への無理解と憤りを感じた1日でした。
幸いにも、診察の経緯を見てくれていた看護師さんが知り合いで、「この病院だけにこだわらなくていいんじゃないの」と言ってくださった。そして、以前の職場の医師から、アルツハイマー病の専門医に診てもらったほうがいいと、現在の主治医を紹介されたのです。
そして6月には、認知機能を低下させるあらゆる病気を視野に入れた、さまざまな検査を受けることができました。約2時間の問診をはじめ、SPECT、脳波、MRIなどの結果は以前と変化はなく、最終的には髄液中のβアミロイド(タンパク質)を計る「髄液検査」によって、「若年性アルツハイマー病」と診断が下されました。
7月からは進行を遅らせるアリセプトの投薬治療を開始。一般的には3㎎から飲み始め、1~2週間後に5㎎に増やしていくようですが、私の場合は主治医の判断で3㎎以下でのスタートとなりました。
アリセプトを飲み始めてからは生活の中で混乱することも減り、料理の時も2つの鍋を同時に使いこなせるようになりました。この病気では、安定した状態をいかに維持するかが大事で、急によくしても逆に混乱することがあります。私も調子がいいと何でもできるような気持ちになって、ついやり過ぎ疲れて寝込んでしまいます。
その後も少し忙しい日が続くと混乱し、「先生、進行してる。薬を増やしてください」と主治医に訴えたことが何度もありました。そんな時も主治医は、「まあ待ちなさい」と私の生活状況を聴き、「忙し過ぎる生活を見治して、自分の脳を痛めつけることを止めましょう」とアドバイスされます。
そして、年に1回の髄液検査やSPECT、脳波などの検査結果に、私の生活での苦しさを加味しながら、微妙な調整で薬の量を決めていかれるのです。専門医でもこうした微調整ができる人は少ないようで、私は6年経過した今でもまだ6㎎。多少のしにくさを抱えながらも自立した生活を続けています。
若年性アルツハイマー病にとって大事なのは、薬の「さじ加減」と同時に周りの対応です。混乱すると考えがまとまらず、急に何もできなくなるので、周囲に気をつけてもらうだけで安心できます。
現在、長女と次女は結婚し、孫も一人できました。講演などで遠出する時は、三女が付き添ってくれます。こうして穏やかに過ごせているのも、小さなミスをしたり、同じことを言ったりしても家族に否定されないから。今の私は娘たちとのおしゃべりが最もホッとできる時です。
外出すると、アルツハイマー病である私への接し方に戸惑い、元気そうに歩く私を異様なものを眺めるような目で見る人もいます。でも、ともに活動する人など本気で応援してくれる仲間がいて、現在の私にとってとても大きな存在です。
自分がアルツハイマー病になって気づいたのが、社会での若年性認知症の捉え方があまりに間違っていること。これまでの認知症といえば高齢者の病気で、症状が進行した後期のイメージが強く、医療よりも介護に重点が置かれていました。
しかし、若年性認知症は仕事や子育ての現役世代が多く、病気の無理解から職を失い、経済的、精神的に不安定になる方や、受診が遅れて症状が進行してしまう方が多いようです。
だから、「そんなはずはない」といった記憶の異変を感じたら、まず受診することが常識になってほしい。若年性に必要なのは、人目を気にすることなく早めに受診できる仕組みや、本人が抱える社会不安を取り払うための支援策です。
現実には、早期治療で患者の生活の質が保たれることに理解ある医師は少ないけれど、一人でも多くの患者さんが私のように信頼できる主治医と出会えることを願っています。(2013年11月14日談)
アリセプト/認知症の進行を遅らせる薬。副作用として、吐き気、不眠、不穏、徘徊など。3㎎から服用し、副作用がなければ1~2週間後に5㎎に増量、さらに高度の認知症の場合10㎎に増量と、厚労省によって増量の指導がある。3㎎は有効用量ではないので、原則として1~2週間を超えて使用しないこと、ともなっている。しかし、個人差に合わせて調整すべきという医療者の声もある。認知症薬は他に、レミニール、メマリー、リバスタッチ(貼付薬)。
藤田和子(ふじたかずこ)
1961年鳥取市生まれ。看護学校卒業後、看護師として市内の総合病院に9年間勤務。同居する認知症の義母、及び義父を10年余り介護の後、個人病院に復職し8年勤務。2007年6月に若年性アルツハイマー病と診断され、翌年退職。10年11月に若年性認知症問題にとりくむ会「クローバー」を設立。11年から13年11月まで鳥取市差別のない人権尊重の社会づくり協議会委員。