ふらっとへの手紙from西宮vol.6
2010/11/25
誰しもそうなんですけど、介護者ってあらかじめ勉強して介護を始めるわけではありません。私の場合もあれよあれよという間に母、兄、父の介護が降りかかってきて、知識のないままやり始めたことで介護への不安を実感した一人です。
今から思うと、介助は力任せにやっていたし、そううつ病だった兄とともにあちこちの精神科にかかっても、まさか医者が間違った薬を出すとは思わず、出された薬はすべて受け入れてた。今だったら「この薬は本当に必要ですか」と聞けるけど、当時はいろんな面で無知でした。父の介護中にスタートした介護保険も、わからないままに利用してきました。振り返れば、本当に後悔ばっかり。こういう思いを次の介護者となる人にしてほしくないのです。
私の介護界への怒りの原点は無知だった自分への怒りで、いまだに両親と兄には申し訳ない気持ちでいっぱいです。私がもう少し利口だったら、もっと医者と闘えただろうにと。講座への思いが強いのはこうした経験からです。
技術面や医療面、制度についても、最低限知っておくべきことが身につかないまま在宅介護を始めると、すごくしんどい。でも、介護される本人はもっとつらいんです。施設で働く介護職の人も同じ。介護福祉士やケアマネジャーなどの資格を取るための机の上での勉強はしてても、認知症のこと、技術的なこと、薬のことなどは実践からの学びしかありません。その結果、身体ばかりか心まで痛めてしまう。最初はどんなにやる気があっても、体力とともに気力まで失せていき、介護の仕事を辞めていく人が跡を絶たないのが現実です。
父の介護中に三好春樹さん(生活とリハビリ研究所)に出会い、三好さんつながりのいろんな講座を受けていったら、「ああ、何も知らなかった」「こんな方法があるんや」と目から鱗状態の連続でした。だから、「つどい場さくらちゃん」を始める時には、いろんな講座を開きたいじゃなくて、開かなあかんと思ったんです。それも、誰でも参加しやすいように、2000~3000円といった安い料金で……。
講師はその方のセミナーを実際に聴きに行き、納得した方に来ていただくのをポリシーとしています。しかも、料金交渉も。今思えば、いろんな方がよう来てくださったと思います。
当時の、三好さんの痴呆論「関係障害」は衝撃的でした。痴呆を単なる病気で片付けるのじゃなく、すべての関係が障害されているから問題となる言動が起きるというものです。また、理学療法士・安永道生さんの介護スキルアップ講座にも愕然とした。食事、嚥下、排泄、座り方等など……。車いすがどれだけ座りにくく、座ることがどんなに大切かを学びました。身体を痛めない介助法、理学療法士・福辺節子さんの「力のいらない介助術」は、介護職すべての人にマスターしてほしい内容です。
精神科医としては、医療側じゃなく患者と家族の側に立つスペシャルな医師、松本一生さん(松本診療所ものわすれクリニック)と岸川雄介さんにも出会えました。今、認知症やアルツハイマーというくくりだけで精神科にかかってる人たちが、どれだけたくさんの薬を処方されていることか。本人は、「これはおかしい」「余計な薬でこんなになってしまった」と言えない人たちです。身近な家族がそれを医者に伝えなあかん、学ばなあかんのです。だから、講座を受けてほしいのです。
そして、講座の後に必ず行うのが懇親会。「つどい場さくらちゃん」が「居酒屋さくらちゃん」となって、手作りの料理とお酒を楽しみながら、普段は話す機会のない講師の先生を囲み、何でも語り合える飲み会です。お酒が入ると話も弾み、脱線はしょっちゅう。介護者はもちろん、介護職の人も職場での悩みをどんどん話して、講師から実のある解答を得てほしい。大切な情報交換、つながりの場となっていると思います。
安心できる介護の核となるのは、やはり介護者。介護者が技術や知識を学んで変われば、介護される本人はもっといい顔になれるのではないでしょうか。(談・この稿は今回で終わりです)