ふらっとへの手紙from吹田vol.3
2010/05/21
途上国に井戸を掘ったり、学校をつくったりするのは、素晴らしい国際支援です。でも、それだけでは一方通行の支援になりかねない。もっと継続的に支援し、現地の人たちの自立をサポートしたい......と考えていた時、所属していた国際協力NGOの中で、バングラデシュやネパールの人たちを訪ねるスタディ・ツアーに参加した人たちが始めた「サマサマ運動」に注目しました。
途上国各地には、どんな貧しい村にも母から子へと連綿と続いてきた手工芸品があります。現地の人たちの「大切なもの」を表すかのような配色の美しい織物や刺繍。本来、その土地でのみ消費されてきたものです。「サマサマ運動」は、それらを買ってきて日本で販売し、収益を現地の支援にあてるというものでした。現地の品を輸入して販売するのはビジネス活動ですから、取引額が拡大するにつれ、NGOで取り扱うのに無理が出てきたため、独立。「有限会社」として活動をはじめたのです。
クッションや財布、トートバッグ、ペットボトルホールダーなど、先進国で売れる形に加工できないかと考えたんですね。公正な価格でそれらを買って、援助ではなくビジネスとし、彼らが現金収入を得ることができたなら、エンパワーメントとなり、自立につながっていく、と。
中でも、私たちは女性支援を柱にしました。途上国では現地の人たちとコミュニケーションを取るにも、その窓口は男性ばかり。激しい男尊女卑に行き当たったからです。
例えば、インドやバングラデシュの農村では、ヒンドゥやイスラムの戒律により、女性は10代で結婚し、子を産み、夫や父親の言いなりになって、家事と子育てだけで一生を終えるのが当たり前。そんな"常識"を知識として知っていても、訪問して目の当たりにした時は、ショックでした。
彼女らが自身の手で少しでも現金収入を得ることができれば、家の中での発言権、ひいてはコミュニティーの中での立ち位置が変わってくるはずと考えたのです。また一方で、そんな農村にも中国製の大量生産品が入り、伝統の手工芸品が駆逐されつつあったので、自分たちの技術や文化を保存していくことも、彼女たちの自信につながるはずだという思いもあったんですね。
訪問したバングラデシュの農村では、修道院に200~300人の女性が集まり、手工芸の場になっていました。彼女たちにとって、家事と子育て以外の場というのは初めてに等しく、手を動かしながらお喋りし、情報交換をする場となる。新しい世界は楽しく、それが「力」になっていく......。
ただし、「売れる商品」作りは、簡単ではありません。例えば「財布の内側の糸の止めはしっかりと!」「鞄はまっすぐに裁断してください」「チャコペンの跡はちゃんと消してね」などと伝えても、彼女らは首を傾げる。「裏がほつれていても、まっすぐでなくても使えるのに、どうして?」なんですね。一つずつその理由を説明し、理解を促し、売れる商品に仕上げてもらう。とてつもなく手間がかかりました。
フェアトレード・サマサマでは、96年に、神戸市東灘区のアパートの一室に店を設け、そんな商品を売り始めました。取引先は、バングラデシュのほか、伝統の織物で袋物を作るベトナムのチャム族、ゴムの木の廃材でおもちゃを作るスリランカのグループ、綿織物を作るミャンマー難民など7カ国10団体に及びました。元手のない人たちには代金を前払いするなど頑張り、現地から「おかげで、子どもに教育を受けさせてやれるようになった」「夫が私の意見も聞いてくれるようになった」との声も届き、手応えを感じたんですが、残念ながら思ったほど売上が伸びなかった。手工芸品の場合、常に新しい商品・販路を拡大していかなくてはならず、そこに無理がありました。新聞等に「神戸の名物店」と取り上げられ、ずいぶん話題にもなったものの、2006年に赤字が限界に達し、閉店を余儀なくされました。
閉店以後は、他のフェアトレード団体と連携して生産者の支援を継続する傍ら、フェアトレードのセミナーやワークショップを開いたり、フェアトレード・ショップの一覧地図を作ったり、様々な情報をニュースとして提供するなど、「フェアトレードは、消費者が身近にできる国際協力」というメッセージを伝える運動に力を入れています。また、「お金の預け方を変えませんか」と,フェアトレード団体や生産者協同組合、マイクロファイナンス機関などに「社会的責任投資」を行う任意組合オイコクレジット・ジャパンの事務局も務めています。
残念ながら日本ではフェアトレードの認知度がまだまだ低く、フェアトレード商品が「良いもの」「意義あるもの」とわかっても、不景気の中で消費者の財布のひもは、特に関西では固いようです。しかし、大手スーパーやコーヒーチェーンがフェアトレード製品を取り扱ったり、国際サッカー連盟(FIFA)がワールドカップでフェアトレードのサッカーボールを使うと決めるなど、喜ばしい展開が出てきているのが何より。高校や大学へ講義に行くと、フェアトレードに非常に興味を持ってくれる学生が増えてきましたし、フェアトレード製品に関心を寄せる企業やショップも増えてきました。私たちは、これからも長いスパンで活動を続けていくつもりです。(談)
●「NGOフェアトレード・サマサマ」のHP
http://homepage2.nifty.com/samasama/