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父の暴力から逃げようとしなかった母を好きになれない

私は、父が母に暴力をふるう家庭で育ちました。父の暴力は日常的なうえにかなりひどく、私は母に何度も「いっしょに家を出よう」と言ったのですが、母は結局家を出ませんでした。私は就職の際に家を出て自立し、ほとんど実家へは帰らなくなりました。
昨年、父が亡くなり、それから母は何かと私を頼るようになりました。私はそんな母がうとましくてなりません。一度、母に「なぜ家を出なかったの?」と聞いたことがありますが、母は「子どもがいたから」と言うばかり。その言葉を聞いてからは、さらに母のことが嫌になりました。最近は電話がかかってくるのも苦痛です。けれどもそんな自分を許せない気もします。

小さいころから母親がひどい目に遭うのを見て育つというのは、本当に大変な経験です。たとえ自分が被害に遭わなくても、何もできないままその場にいなければならなかったこと、大切な母を助けられなかったことなどは、心の傷として残ることがあります。そのうえ母親が「子どもがいたから逃げられなかった」などと言えば、子どもとしては余計につらいですね。
家庭内でのパートナー間の暴力はドメスティック・バイオレンス(DV)といわれ、最近でこそ社会的に注目されるようになりましたが、一昔前までは「家庭内で、夫が妻をどうしようと勝手」「殴るのもしつけのうち」「男は口で言わない代わりに手が出るものだ」などと、家制度と男尊女卑の思想が社会通念としてまかり通っていました。さらに「よその家のことには口出しすべきではない」という考えもあり、女性の被害は放置されてきたのです。そんななか、女性自身も、夫に支配され脅され続けるうちに考える力や自分を信じる力を奪われ、無気力な状態に置かれてきました。それがあなたのお母さんのような悲劇につながったのです。
しかし、子どもにはそんな事情は関係ありません。あなたが「心配していたのに裏切られたような気持ち」を抱いたとしても無理のないことです。お母さんの心の中にも、自分でも気づいていないごまかしやすり替えの気持ちがあったかもしれません。親のことを悪く思うのはつらいことですが、あなたの気持ちの中にはそれなりの理由があるはずです。自分を責めず、まずは本当の気持ちを受け止めて、その理由を自分なりに整理してみてはどうでしょう。カウンセリングなども役に立つと思います。