2.性同一性障害は病気なのですか?
Q1:子どものころから男の子といっしょに遊んだりして、お転婆な女の子だなどと言われてました。成人後も「女らしく」するのは苦で、化粧は日焼け止め程度、スカートも持ってません。知り合いはおおむねこんな自分を認めてくれていたのですが、先日ある人から「それは性同一性障害じゃないの? 一度病院で診てもらったら」と言われました。自分は病気なんでしょうか?Q2:男子校で「男の娘〔オトコノコ〕」してます。先生からは「性同一性障害の診断を病院へ行って受けたほうがいい」と勧められますが、自分にとってはこれが普通で、病人扱いされるのは心外です。「障害」という言い回しにも抵抗あります。
「性同一性障害は身体の性別と心の性別が一致しない病気」というのは便宜上のとらえ方です。このように説明することで、「男は男、女は女」と固定的に思い込んでいた人にも、まずは理解されやすいですからね。
また、ホルモンや性別適合手術などを考えている人に対しては、医療が関わることが必要になってくるので、その際には病名があったほうがスムーズだという事情もあります。
それに、性同一性障害でしんどい思いをしている人の多くは、周囲から男らしくない・女らしくないと責められたりして、そのことで社会生活がうまくいかなくなることも少なくありません。それが原因でうつ病などになる人もいます。そうした困難が生じている実状に対して何らかの診断名が付けられることは、精神医療においてはわりと一般的だったりします。
つまり「私は性同一性障害です」というのは、そうした社会状況と本人のありようとを折り合わせながら説明するための方便なのだと言えましょう。
したがって、このご相談のように、本人が特に不都合を感じていない場合であれば、実際に病院へ行けば性同一性障害と診断されうるケースかどうかにかかわらず、その必要は薄いというのも事実です。無理せず、自分にとって自然で心地良いライフスタイルを選んで行かれるとよいのではないでしょうか。他人と少しちがっても、そんな自分を肯定して好きでいられるなら問題はありません。
要は、ありのままの自分を大切に思うことなのです。
ただ、「病人扱い」や「障害」に抵抗感を持たれているのは、ご自身がそうしたことに多少の差別意識や偏見を持っておられることの反映かもしれません。
自分が病気だなんて認めない、障害なんかじゃないなどと拘るのではなく、そもそも「普通」とは何なのか、何が「健康」で「正常」かを多数派の基準が決めていることが、性同一性障害が病気であるという設定を動機づけているのでは!? という視点は重要かと思われます。
あと、そうは言っても現実の世の中は「普通の」男女を標準として動いていますから、性同一性障害だという診断を受けているほうが有利になる側面も存在します。進学や就職の際に考慮してもらえる可能性も上がります。診断書がいわゆる水戸黄門の印籠のような権威として機能する場面は、他にもひとつならずあるでしょう。
そのあたりを勘案して「性同一性障害」という病名と付き合っていくのもまた、ある種の生きるための方便としてあってよいのではないでしょうか。