「ブラック企業」に潰されないために 泣き寝入りが蔓延に拍車をかける NPO法人POSSE 今野晴貴さん
2014/02/20
「ブラック企業」という言葉をよく聞くようになった。長時間労働を強いる会社? 労基法を守らない会社? 何を意味し、その実態はどうなのか。そして、対応は? 労働相談を受けているNPO法人POSSE代表の今野晴貴さんに聞いた。
――ずばり、ブラック企業とはどんな企業のことですか?
正社員として若者を雇用しながら、すぐに退職に追い込むような企業のことです。要注意なのは、
- 新卒社員の離職率が高い
- 過労死・過労自殺を出している
- 短期間で管理職になることを求めてくる
- 残業代が基本給に含まれている
- 求人広告や説明会の情報がころころ変わる
といった会社です。
――2006年からNPO法人POSSEで若者からの労働相談を受けてらっしゃいますが、いつ頃からブラック企業を意識されたのでしょうか?
2009年2月頃からです。正社員の若者からの「会社でいじめられている」「辞めさせられる」という相談が急に増えたんです。定期昇給や賞与のない正社員が増えたと感じ始めていた時期で、それまで非正規雇用の人に対して行われていたバッシングが、正社員にも向けられるようになり、顕在化してきたんですね。
――昔からあった労基法違反とは、どう違うのですか?
一番の差は、人材を育成しないで使い捨てることです。
残業代を払わない、過労死に至らせるなど違法労働、キツい労働は昔からありましたが、それは基本的には長期雇用や年功賃金とセットだったので、我慢すれば報われるという側面がありましたよね。我慢してサービス残業をしているのに、まさか35歳ぐらいで首を切られると思っていた人はいなかった......。
ブラック企業という言葉は、「35歳定年」と言われるIT業界で生まれました。絶対に達成できないノルマや、月200時間といった長時間の残業命令など過重労働、パワーハラスメントを強いられて35歳ぐらいで体が持たなくなる。その上、技術の変化に対応するような新しい訓練は受けさせてくれない。この結果、若くして会社を辞めざるを得なくなるからです。頑張ってキツい労働に耐えても終身雇用は保証されず、年功賃金で給料が上がっていつか元を取れることもないわけです。
――入社前にブラック企業と気付けないものなのでしょうか?
「正社員」という言葉に、みんな騙されるんです。
正社員は労働法に定められた法律用語ではないんですね。みんなが「正社員」に求めようとする、従来の日本型雇用の正社員の労働条件は、労働組合が団体交渉で勝ち取ってきたものなんです。労働組合もなく労務管理の仕組みが整っていない新興産業の企業が、終身雇用でも年功賃金でもない雇用を正社員ということ自体は違法じゃないんです。
だから、若者が、ブラック企業の「正社員」の求人を従来のような正社員だと勘違いして入社し、実はぜんぜん違ったということが起きているんです。
――とすると「正社員は安定している」というのは、もはや幻想?
そうです。正社員の中の労働市場分断が起きています。従来の日本型雇用の正社員と、使い捨ての正社員の二極化が進んでいるんです。
産業の新陳代謝によって、製造業や金融など従来の日本型雇用の企業が相対的な割合を下げ、ITや、外食、小売などのサービス業の新興企業が増えている中で、若い人たちの正社員を採用する多くが、そういった新興企業なわけです。そこにブラック企業が蔓延してきたのだと思います。
繰り返しますが、日本型雇用の正社員と、使い捨ての正社員は明らかに違う。みんな、その違いに気づいていないから、ブラック企業はなくならないんですね。
――「正社員なのに、違法な働き方をさせられている」と捉えるのは間違いということですね。
間違いです。確かに、ブラック企業は違法行為も犯していますが、それは従来型企業でも多々見られます。違法だから問題なんじゃなくて、使い捨てるから問題。使い捨ては、労組がないからできる。労使交渉をやっていないのだから、労働の中身は企業側が勝手に決め、ヒドイものになっていく。単純な話なんです。
――しかし、実際問題、ブラック企業で労使交渉はできるものなんでしょうか?
法的に権利はあり、やればできます。
ただ、今のところ、「使い捨て正社員」の会社で、労働組合を作って労使交渉をしたという実例はほとんどないのが実状です。原理的にはできるが、誰もやらない。そう言っている間にもどんどんひどくなって使い捨てが蔓延していく。もう末期的な病理状態です。