関東大震災時の朝鮮人虐殺は「今」につながるレイシズムだ 加藤直樹さん
2015/01/29
昨年3月の出版以来、『九月、東京の路上で』が注目を集めている。副タイトルは「1923年関東大震災 ジェノサイドの残響」。関東大震災のときに起きた、日本人による朝鮮人虐殺を、資料や証言を元に丹念に描くと共に、レイシズム(人種差別)は過去の問題ではないーーと読み手に迫るノンフィクションだ。著者の加藤直樹さんに、執筆の思いや反響について聞いた。
――新大久保でのヘイトスピーチデモのプラカードに「不逞朝鮮人」の文字を見つけ、関東大震災時の朝鮮人虐殺を思い出してぞっとしたと、とまえがきに書かれています。執筆の動機から教えてください。
2000年、当時の石原慎太郎都知事の「三国人発言」が、最初のきっかけです。
「不法入国した三国人、外国人が凶悪な犯罪を繰り返しており、大きな災害では騒擾事件が想定される」から自衛隊の治安出動が必要だと言った。
おかしなことを言っているぞと思い、関東大震災だけじゃなく、災害に関する社会学関係の本を読んで調べたんですよ。分かってきたのは、災害のときにマイノリティが暴動を起こしたなんてことは、歴史上なかった。むしろ、ありもしない流言が広まり、悲惨な二次災害を起こすことが、古今東西よくあったということです。
それで、石原発言はたいへんな問題であり、関東大震災時の虐殺は過去の問題ではないなという思いを持ち続けていた中で、2013年に新大久保に行き、在特会のデモに対する抗議行動に参加しました。
すると、抗議する側でも関東大震災の記憶が消えていることに気づきました。これはまずい。突然、在特会が現われたわけではなく、歴史的な経緯がある。その一つが関東大震災時の朝鮮人虐殺だと、一緒に抗議行動に参加していた友人たちに呼びかけたかったんです。
――それで、まず、関東大震災時の朝鮮人虐殺があった地を訪ねるブログを書かれたんですね。
そうです。ブログを書き始めたのが、2013年8月31日でした。翌9月1日が関東大震災90年です。それで、同時並行して90年前に起きたことを実況中継していくような感じで、訪ねた先々の写真を撮り、当時の証言や記録を連載していきました。
そのブログに加筆して、この本にまとめたんです。
――資料集めがたいへんだったのでは?
いえ、官庁資料などをまとめたものや70年代に出た証言集などが、大学や国会図書館にありました。絶版になっていたりして、注目されないけれど、出てはいるんです。
避難した荒川土手で、朝鮮人たちが消防団にいきなり縄でじゅずつなぎにされ、警察に連行された。神楽坂警察の前で、男が鳶口で朝鮮人の頭を突き刺した。軍に命令された日本人が、刀や猟銃で朝鮮人を殺した......。「朝鮮人が放火している」「井戸に毒を入れている」と根も葉もない流言に行政が加担して広がり、自警団をはじめとする日本人によって無惨に虐殺された光景が、その背景とともにリアルに綴られている。 |