顔や身体にさまざまな病変や外傷、先天異常などがある人たちがいます。自らを「ユニークフェイス」(固有の顔)と名乗る彼らが、多くの人とは違う「見た目」をもつことからくる生きづらさを語り始めました。「人間は外見ではない。中身 が大事だ」「個性を尊重しよう」と、私たちは簡単に口にします。しかし現実は決してそうではないのです。
ユニークフェイスの人たちの生きづらさの背景には、何があるのでしょうか。
いきなり飛んできた罵声
「お前たちみたいな顔の人間がいるから世の中が悪くなるんだ!」
赤荻眞紀子さん(44歳)は、駅の雑踏のなかでいきなり罵声を浴びせられた。驚いて声のした方を見ると、サラリーマン風の中年男性が足早に去っていく背中が見えた。「突然だし、通りすがりに言われたので、何も言い返すことができませんでした」。 数年前の、一瞬の出来事。しかし今もその時の光景はハッキリと覚えている。
そんな失礼な人がいるのかと驚く人もいるだろうが、「ユニークフェイス」の会員たちにとってこのような経験は珍しいことではない。ジロジロ見られる。見られながらヒソヒソ話をされる。笑われる。「その顔、どうしたんですか?」と尋ねられ る・・・。常に不特定多数の人々が放つ好奇や侮蔑の視線にさらされているのだ。
「視線に慣れることは絶対にありません」
レックリングハウゼン病の赤荻さんは、左目の左と右鼻下、そして身体全体に神経線維腫と呼ばれる腫瘍がある。切除しても再発・成長するという特徴がある ため、これまで20回以上の入院・手術を経験してきた。当然、痛い思いもするし、不自由もある。しかし赤荻さんにとって最大の苦痛は、病気そのものではない。「ふつ う」でない顔をもつ赤荻さんに対する多くの人の対応こそが、彼女を苦しめてきたのである。
顔に関する記憶は、物心がつき始めた3歳から始まる。外を歩くと「へんな顔」「気 持ち悪い」といった言葉が飛んできた。まだその意味もはっきりと理解できないほど幼かったが、投げつけられた言葉は心に刻み込まれた。
小学校時代、子どもたちからの容赦ない視線や嫌がらせは日常茶飯事だった。それらは教室内にとどまらず、朝礼などでグラウンドに並べば隣のクラスの子どもたちがネチネチと侮辱する。30年以上たった今でも心が痛む思い出もある。
中学からは中高一貫の女子校に進んだが、さっそく「そんな顔して・・・」と面と向かって言う同級生がいた。しばらくは黙って耐えたものの、「最初から我慢してしまえば、6年間言われっぱなしになる」と考え、思い切って「あなたに関係ないでしょ う」と言い返した。以来、学校でのいじめはほとんどなくなった。
だが、視線からは逃れられない。通学途中、特に電車内という閉鎖的な空間のなかで、決して好意的ではない視線にさらされることは、思春期の赤荻さんにとって耐え難い苦痛だった。これも黙って耐えずに受けて立とうと、にらみ返したり「何か用で すか?」と話しかけてみたりした時期もある。たいていは相手のほうから目を逸らすなり、「別に」と答えて立ち去って行くなりして終わるのだが、なかには「どうして 見てはいけないんだ」と逆ギレする人もいた。何より赤荻さん自身の気力や時間を消耗してしまう。やがてどんなに視線を感じても感じないふりをし、人が目に入らない ようにふるまうことで自分を守るという術を身につけた。そうはいっても視線に慣れるということは絶対にない。さまざまな経験を経た今でも、凝視されるたびに落ち込む。