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 子どもの成長は、親にとって嬉しく誇らしく、時にほんの少しさみしさを伴った感慨をもたらすものである。どんなに親の手をわずらわせた子どもも、親以外の人間関係を築きながら成長し、少しずつ親の手を離れ、自立する。それが自然な親子の姿だろう。
 しかし、障害を持つ子どもとその親は、なかなか「あたりまえの親離れ、子離れ」ができない。正確にいえば「できない」のではなく、社会がそれを阻んできたと、あえて断言してもいい。たとえば、'99年11月付けの「ふらっとトピックス」で紹介した折田 涼くん(10歳)。学校や友だちと遊ぶのが大好きだという彼のあたりまえの日常生活は、両親の奮闘とボランティアの支援によって辛うじて支えられている。


なぜ親の付き添いが必要なのか?
 涼くんは生後まもなく、全身の筋肉が衰えるという難病、ウェルドニッヒ・ホフマン病と診断された。6ヵ月の頃から、人工呼吸器をつけて生活している。彼にとって人工呼吸器は、まさに身体の一部なのだ。しかし、社会はなかなかそういう事情を持つ子を受け入れない。人工呼吸器をつけた子=特別な子として、「特別な対応」が必要だと判断、本人や親にもそれを強制する。涼くんの両親は、市立保育所への入所時から「受け入れ態勢が整っておらず、現場の不安が大きい」と主張する池田市と何度も話し合いを重ね、保育所への通園、小学校への入学を実現させてきた。「同じ年ごろの友だちと遊びたい」「みんなといっしょに学校へ行きたい」というあたりまえの願いが、涼くんにとっては「夢」といってもいいほど、実現への道のりは長かった。

 その背景には、いくつかの要因がある。ひとつは、「障害のある子は、その子に合った教育を受ける方が幸せだ」という日本の障害児教育観。だからこれまで、耳に障害がある子はろう学校へ、目に障害がある子は盲学校へ、といった具合に地域の学校から分離されてきた。学校が自宅から遠い場合は、家族とも離れ、寮生活を余儀なくされる子どもも多い。特殊教育のメリットを全否定はできない。しかし、「その子のため」という名目で、教育を受ける本人ではなく、受け入れ側の事情よって否応なく「選ばされてきた」のもまた、事実である。

 また、「医療的ケア」をどうとらえるかという問題もある。涼くんには24時間介護が必要だが、主なケアとしてたんの吸引がある。自力でたんを排出できない涼くんにとって、たんが詰まるのはすなわち「息がつまる」という大変なことなのだが、吸引自体は少し指導を受ければ誰にでもできることである。実際、介護ボランティアの人たちも涼くんの両親から教えてもらい、たんの吸引を行っている。しかし池田市教委の姿勢は当初、「涼くんに対する医療行為は、主治医の責任において実施されるべきであり、学校内においても同様である。医療的ケア等の対応を望むなら、養護学校等への就学措置についての検討も必要である」とする頑ななものであった。
 医師法17条は、医療行為を「医師でなければ、医業をしてはならない」と定めている。一方、涼くんが受けている医療的ケアとは、たんの吸引やチューブで鼻から栄養分を補給する経管栄養法、導尿など指し、在宅で家族らでも行える医療的介護行為として、最近広く認知されつつある。大阪市をはじめ、「どんなに重度の障害であっても、本人および保護者の意思を尊重し、地域の学校に受け入れる」という自治体も着実に増えている。障害をもつ子が地域の学校へ通うというのは、明らかに時代の流れとなっているのだ。しかし、涼くんの入学後も池田市教委は親の付き添いを求め続けている。母親のみどりさんは毎日、涼くんとともに登校し、資料室で待機。たんが詰まった時などに呼ばれると駆けつけ、吸引する。涼くんのために市教委から派遣された看護婦資格を持つ養護主事と特別介助員が、涼くんの主治医から研修を受け、「医療的ケアをしてもいい」という許可が出たのだが、池田市教委は「教職員が”医療行為”をするのは困難」とする考えを変えなかった。

 涼くんの両親は、地域の学校への通学にこだわる理由をこう話す。「私たちが暮らしている、そしてこれからも暮らし続けていく地域の学校で、いっしょに泣いたり笑ったり、励まし合える仲間をたくさんつくってほしい」。親なら誰もが願う、あたりまえの気持ちだ。「特別扱い」を望んでいるのではない。「涼もひとりの子ども。ただ、どうしても必要なケアがあるからそれを手伝ってほしいんです」とみどりさん。

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